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「....え」
「だ、だから...俺を弟子にしてください...!」
「ちょ....、声でかい!」
翌朝、何故か本田が千里の教室までやってきた。
千里は昨日の件でまたスマホを強奪しようと画策してのことだろうと考えたが、それも見事に裏切られる。
目の前でがばりと頭を下げる本田に千里はぎょっとして、すぐにその肩を掴み顔を上げさせると、本田を連れて慌てて教室を出る。
そして自販機横のひとけのないスペースまでやってくると、千里の焦った様子に戸惑いを隠せずにいた本田がすぐに遠慮がちに千里の名前を呼んだ。
「あの...鷹野さん..」
「...あーくっそ、ミケに見られた。まじで何してくれてんだよ...」
「え?...すみません俺、何も考えずに声掛けちゃって...なんかまずかったっすか..?」
「見りゃわかんだろ、俺今真面目な生徒なの。なんだよ弟子にしてくださいって」
昨日と打って変わって下手に出る本田に面倒な事になったなと頭を抱えながら文句を言えば、本田は「...そうか、高校デビュー...」と嫌な納得の仕方をしていた。
しかしそれはそうと、先ほどの申し出を受け入れるつもりは毛頭ない。
そもそも弟子ってなんだ。何をするんだ。
「弟子とか意味わかんないし、まじでやめて」
「...で、でも...」
「そもそも俺カツアゲとかする奴人間的に無理だし」
「...!た、鷹野さんも中学時代は喧嘩に明け暮れて何人も病院送りにしたって...」
「ちげぇから。見た目派手にしてたら絡まれるようになって適度に対処してただけ。俺酒も煙草も勿論だけど、好き好んで人殴るようなことしたことねぇよ。病院送りって話も噂に尾ひれがついただけで大袈裟。だから本田くんが思ってるような人間でもねぇし」
元々中学の時に千里が荒ぶっていたのは三毛門の家庭の事情が起因している。
勉強は昔も今もできないが、世間一般的にいわれている「不良」らしきことは自己防衛以外ではしたことがない。
間違った情報を正しつつ、これで「なんだ思い違いか」と本田が弟子入りの申し出を取り下げてくれないだろうかと視線をやれば、本田は驚いたように目を見開いている。
そして意を決したように口を開いた。
「...俺、ずっと鷹野さんに憧れてたんすよ...、だから俺を鷹野さんの下に...」
「嫌だって。上とか下とかもないし、俺は弟子とか受け入れる気ない。...つかまじでカツアゲとか終わってんだろ。とりあえず金は全部返して誠心誠意友達と一緒に謝ってこい」
「...わ、わかりました」
千里の言葉に本田は顔を伏せたまま小さく頷いた。
もうこれ以上関わってきてほしくないなと内心思いながら、そろそろ教室に戻らなくては...と自分の帰りを待っているであろう飼い猫の姿を脳裏に思い浮かべてその場を後にしようとした。
しかしその時、ここにはいないはずの第三者の声で千里の名前が呼ばれた。
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