29人が本棚に入れています
本棚に追加
「...千里、なにしてんの。誰そいつ」
「..うわ、ミケ...」
「うわってなんだよ。で、あんた誰?さっき教室で弟子がどうとか言ってたけど、俺の千里に勝手に何してくれてんの」
「...!もしかして、三毛門さんもあの...!」
「ミケ、言い訳させてくれ。弟子の件はもう話付いてるから、とりあえず教室戻ろう」
「....」
間違いなく自分のせいで苛立ってしまっている様子の三毛門の前に慌てて立ち千里は視線を合わせると、すぐに三毛門を連れて教室への戻ろうと腕を引く。
背後では「鷹野さん...!」という本田の叫びが聞こえたが、今は彼に構っている暇はない。
「...千里、全部説明してくれるんだよね」
「うん、余すことなく話す。だから怒んないで...まじでごめん...」
「なに?謝ることがあるってこと?...はあ、まあいいや。ひとまず教室ね」
「...うん」
若干の気まずさを孕みながらも、この後何から話そうか...と千里は頭を悩ませた。
◇◇◇
「...千里、そういや教室ざわついてたけど」
「えっ...」
「そりゃそうでしょ。入学したとき一回千里が西中の鷹野じゃないかって噂されてたじゃん、それ高校デビューで頑張って噂絶やしたのに、今日あいつにあんなこと教室で言われたせいで全部水の泡」
「...」
人生、本当にうまくいかないことばかりだ。
しかしそれも全部自分の責任でしかない。
それに困っている人を見たのにも関わらず、それを見て見ぬふりするほうが、後になって何倍も後悔することになっていただろう。
「...もしみんなにバレたらそれはそれでしょうがないよな。腹括るわ...」
「ふぅん。まあ別にバレたっていいんじゃない。俺はずっと千里の傍にいるし」
「...ミケ」
諦めにも近い千里の呟きに、三毛門は視線を合わせぬままそんなことを言う。
それが三毛門なりの千里を安心させるための「優しさ」だとわかって、その存在にたしかな安堵を得る。
「...うん。俺ミケさえ俺の傍にいてくれれば大丈夫だわ。ありがと」
「...それはそうと、話は聞かせてもらうよ。ほんと千里は昔っから面倒ごとにわざわざ首突っ込んでいくよね。そういうとこ変わらない」
「だってほっとけないだろ」
「...まあそれが千里の良いところでもあるよね。俺も実際、あの時は救われたし」
三毛門は過去の出来事をなぞるようにそう口にして、照れ臭そうにその目元を細めた。
───...そうだ。あの時だって俺が行動を起こしていなければ、ミケとの今の関係もなかったかもしれない。
そう考えれば、やはり自分のやってきたことは間違いではないと思えて、少しだけ心が軽くなった気がした。
最初のコメントを投稿しよう!