0人が本棚に入れています
本棚に追加
あれからさらに十数年が経ち、私は就職した。今、介護施設の職員として働いている。忙しいけれどやりがいのある、充実した毎日。記憶が幼い子どもに還って、おうちに帰りたいと泣く入居者には、へん顔をしてあやして笑わせたりしている。
そうするたびに、お母さんを思い出しながら。
***
ある日、新しい入居者が来るから担当するようにと告げられた。
「60代半ばだけれど若年性認知症を発症して、ご家族のことをすっかり忘れてしまった方だそうよ。毎日、あなたたちは誰? と聞かれて、ご家族もすっかり疲弊して、入居させることにしたんですって。名前は、園部 郁美さん」
「いくみ…」
お母さんと、同じ名前。まさか、ね。
最初のコメントを投稿しよう!