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病室に入り傍に歩み寄ると、お母さんは私の顔を見、腕に縋り付いて言った。
「お母さま、来てくれたのね! ねえお願い、へんなお顔見せて! いくみ、哀しくなっちゃっているから、元気がほしいの」
「ああ…」
私の喉から呻くような声が漏れ、それから私は、昔お母さんを元気づけようと繰り返したあのへん顔をした。小さな女の子になったお母さんは笑顔になり、もう一回、お願い、あと一回だけ、と言う。
「じゃあ、あなたも、へんなお顔をしてみせて?」
そう水を向けると、うん、と頷いて、いつもの顔をしてくれた。
向き合って、お互いに向かって、もう一回、もう一回やって、あともう一回だけ! と繰り返しながら、ずっとへん顔をし続けて。その間、私の目からは、ぽろぽろと涙が零れていた。
神様、もう少し、もう少しだけ、このままでいさせてください―。
FiN
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