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お母さんは、いつも忙しい。私を「おんなでひとつ」で育てているから。
おんなでって何のことかわからないけれど、でも、お母さんはお母さんだけじゃなくて、お父さんの役割もしなくちゃいけないからたいへんなんだって。
でも、お母さんはいつも、あなたと一緒にいられて幸せよって言う。うん、私も幸せ。
忙しい毎日の中で、眠る前、ご飯の後、そんなちょっとした間に間に、私はいつもお母さんに抱きついてお願いをした。
「お母さん、へんなお顔して!」
いつのころからか、私が泣いているとき、気分が落ち込んでいるとき、お母さんはいつもリクエストに応えてへんな顔をして見せて、私は笑って元気になった。お母さんも笑って、幸せそうに見えた。だから、いつもお願いをしてしまう。
お母さんは笑って、思いっきりへんな顔をして見せる。それを見た私は笑って、笑って、自分もへんな顔をして見せてお母さんを笑わせて、そしてお願いする。
もう一回 もう一回。
「いやぁよ。もう何回目よ? もうお終い」
「あと一回、一回だけだから! ほんとにほんとの最後だから! お願い!」
「しょうがないなあ」
お母さんはさらに笑って、最後の、とびっきりのへん顔をして、言った。
今日はほんとにこれでお終い、約束だからね。また今度ね。
***
「小さいとき、私もよくお母さんにへんなお顔してってお願いしたわ。親子って、似るのね」
あるときお母さんが言った。
「お母さんにも、お母さんがいたの? 今どこにいるの?」
「そりゃ、誰にでもお母さんはいるでしょ(笑)。お母さんのお母さんは、あんたにとってはおばあちゃんね。おじいちゃんもおばあちゃんも、あんたが生まれる前に死んじゃった。
…あんたはおばあちゃんによく似てるわ。隔世遺伝ってやつかしら」
かくせいでんっ、て何のことかわからなかったけれど、お母さんのお母さんは(お父さんも)死んじゃったんだ。私のお母さんも死んじゃったりするのかな、そうだったらどうしよう? 急に不安になって、俯いた。
「みや!」
名前を呼ばれて顔を上げる。目の前に、へんな顔したお母さん。思わず笑い出して、不安はどこかに吹き飛んだ。
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