②「陰陽師班」

1/1
前へ
/18ページ
次へ

②「陰陽師班」

 賀茂貢(30)は「イザナキの地」在住の交安の隊員だった。  五分刈りアタマの筋肉質な170cmちょっとの身体の男は、治安の荒れた地区に率先して出かけ取り締まりを行っていた。 「おい、賀茂。」ある日上官の部屋に呼ばれた。 「明日から本署へ行け。地下にある部屋に行けばよいそうだ。」 急な話だが、署長から異動命令を受けた。 「本当に急ですね。自分は今の業務に誇りを持っているのですが。」 「だから選ばれたんだろう。”イザナキの地”内は全て上に監視されている。」  翌朝、貢は指令された通り本署の地下へ向かった。 扉の前に来ると「新人。構わぬ、入れ」と心に響いて来た。貢は中へと入った。  中はそれほど広くないスペースに、50代の班長、20代の女性事務員、屈強そうな隊員と、中世的な細身の隊員が居た。 「よくぞ来てくれた。最近は地縛霊の発生事案が多すぎて、今の人員でさばける量ではなかったんだ。期待してるぞ。私は班長の長谷川だ。」 「早速で悪いが、強力な地縛霊の発生事案が発生している。キミは”式神”の事は知っているか?」 「式神…? 昔公安の座学で学びはしましたが、ここは”陰陽師班”なのでありますか?」 「何も聞かされず来たのか? 普通の人間はあの「陰陽勾玉巴(いんようまがたまともえ)」の模様が施されたドアはくぐれないぞ。 この部屋に入ってこれた以上、キミも式神を使いこなせるはずだ。 うちの班員は全員”式神使い”だ。すぐに慣れるだろうが、今日は長澤の後ろにまわって地縛霊の対応方法を見ておけ。」 「え?今日の現場は新人さん同行なんですか?」 細身の長澤が不満そうに答えた。 「賀茂に式神の操り方を目で覚えさせるんだ。」 「相変わらず人使いが荒い。新人さんには”破敵剣”の所持の許可をお願いします。」 「敵は地上にいて、地上は放射性物質で溢れてかえっている。この全身スーツとマスクは絶対に外さないように。そしてこの剣を必ず持っててください。」  長澤の運転するバイクタイプのホバークラフトの後部席に乗って、現地へ向かった。  地上の学校の廃墟に地縛霊の女子校生が1人立っていた。 「靴が片方見当たらないの。どこにあるか知らない?」 「なるほど。かなり強い怨霊の覇気だ。いきなりエグいのに当たったね。 賀茂さん破敵剣を構えて後ろで見てて。前に出たら命の保証はできないよ。」  長澤は式札から「朱雀(すざく)」の式神を呼び出した。「朱雀」は燃えたぎる全身の羽を刃に変え、数百の羽を女子校生へ解き放った。 おびただしい数の羽を刃が女子高生を襲ったが全てはじかれた。 「ねえ、靴がないの。アナタ達も探してよ。」 90度ずつアタマを開店させながら、女子校生が近づいてきた。 「探してくれないなら、殺す。」  地縛霊の多くは自殺後恨みの深さから成仏できず、地縛霊となっている者が多かったが、被災で世界中の海が入り混じり、特に「イザナキの地」では、中国の「山海経(せんがいぎょう)」の悪鬼達がたくさん入り込み、地縛霊と合体して凶悪化していた。  突然真っ白な巨大な蛇が現れ、もの凄いスピードで襲い掛かってきた。 「朱雀」と長澤は破敵剣で攻撃を受け流していたが、かなり苦戦していた。  言われた通り賀茂は後ろに下がっていたが、頭の中で「なぜ戦わぬ?久々の手応えのありそうな獲物じゃねぇか。」と声が聞こえた。 「誰の声だ?なぜ俺の中にもう1つの意志が居る?」  賀茂が混乱してる間に、既に目の前に「白虎」の式神が現れていた。 「おい朱雀、そんなに苦戦する相手じゃねえだろ。少し鍛錬が足らねえんじゃないか?」  と言い放った直後には白虎は白蛇に噛みつき、ズタズタに喰いちぎっていた。 「まだ本人の意志ではなさそうだけど、班長の言ってた通り良いポテンシャルは持ってそうだな。」と長澤は感心していた。  喰いちぎられた白蛇はドロドロに溶けていった。  くたんと座り込んだ、気の弱そうな女子校生はブツブツと自らが受けた(いじ)めへの恨みを言い続けていたが、長澤が呪符(じゅふ)を貼り呪詛(じゅそ)を唱えると、蒸発するように除霊された。 「賀茂さんは確かに戦力になりそうだから、まずは”式神”をうまく使いこなせるようになってよ。まさか破敵剣を使わなくて済むとは思わなかったよ。」  現場での一連の出来事は、長澤が見た映像データを本署の「陰陽師班」に送り、3人がモニターで見ていた。 「結構やれそうだな。さすがの血筋ってとこか。 我が班は”プライマリ”の地縛霊への対応が中心だったが、賀茂が加われば、”セカンダリ”への対応案件も増やせる。」 班長は、初日の戦績報告を”ミカヅキ”に送っていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加