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②「陰陽師班」
賀茂貢(30)は「イザナキの地」在住の交安の隊員だった。
五分刈りアタマの筋肉質な170cmちょっとの身体の男は、治安の荒れた地区に率先して出かけ取り締まりを行っていた。
「おい、賀茂。」ある日上官の部屋に呼ばれた。
「明日から本署へ行け。地下にある部屋に行けばよいそうだ。」
急な話だが、署長から異動命令を受けた。
「本当に急ですね。自分は今の業務に誇りを持っているのですが。」
「だから選ばれたんだろう。”イザナキの地”内は全て上に監視されている。」
翌朝、貢は指令された通り本署の地下へ向かった。
扉の前に来ると「新人。構わぬ、入れ」と心に響いて来た。貢は中へと入った。
中はそれほど広くないスペースに、50代の班長、20代の女性事務員、屈強そうな隊員と、中世的な細身の隊員が居た。
「よくぞ来てくれた。最近は地縛霊の発生事案が多すぎて、今の人員でさばける量ではなかったんだ。期待してるぞ。私は班長の長谷川だ。」
「早速で悪いが、強力な地縛霊の発生事案が発生している。キミは”式神”の事は知っているか?」
「式神…? 昔公安の座学で学びはしましたが、ここは”陰陽師班”なのでありますか?」
「何も聞かされず来たのか? 普通の人間はあの「陰陽勾玉巴」の模様が施されたドアはくぐれないぞ。
この部屋に入ってこれた以上、キミも式神を使いこなせるはずだ。
うちの班員は全員”式神使い”だ。すぐに慣れるだろうが、今日は長澤の後ろにまわって地縛霊の対応方法を見ておけ。」
「え?今日の現場は新人さん同行なんですか?」
細身の長澤が不満そうに答えた。
「賀茂に式神の操り方を目で覚えさせるんだ。」
「相変わらず人使いが荒い。新人さんには”破敵剣”の所持の許可をお願いします。」
「敵は地上にいて、地上は放射性物質で溢れてかえっている。この全身スーツとマスクは絶対に外さないように。そしてこの剣を必ず持っててください。」
長澤の運転するバイクタイプのホバークラフトの後部席に乗って、現地へ向かった。
地上の学校の廃墟に地縛霊の女子校生が1人立っていた。
「靴が片方見当たらないの。どこにあるか知らない?」
「なるほど。かなり強い怨霊の覇気だ。いきなりエグいのに当たったね。
賀茂さん破敵剣を構えて後ろで見てて。前に出たら命の保証はできないよ。」
長澤は式札から「朱雀」の式神を呼び出した。「朱雀」は燃えたぎる全身の羽を刃に変え、数百の羽を女子校生へ解き放った。
おびただしい数の羽を刃が女子高生を襲ったが全てはじかれた。
「ねえ、靴がないの。アナタ達も探してよ。」
90度ずつアタマを開店させながら、女子校生が近づいてきた。
「探してくれないなら、殺す。」
地縛霊の多くは自殺後恨みの深さから成仏できず、地縛霊となっている者が多かったが、被災で世界中の海が入り混じり、特に「イザナキの地」では、中国の「山海経」の悪鬼達がたくさん入り込み、地縛霊と合体して凶悪化していた。
突然真っ白な巨大な蛇が現れ、もの凄いスピードで襲い掛かってきた。
「朱雀」と長澤は破敵剣で攻撃を受け流していたが、かなり苦戦していた。
言われた通り賀茂は後ろに下がっていたが、頭の中で「なぜ戦わぬ?久々の手応えのありそうな獲物じゃねぇか。」と声が聞こえた。
「誰の声だ?なぜ俺の中にもう1つの意志が居る?」
賀茂が混乱してる間に、既に目の前に「白虎」の式神が現れていた。
「おい朱雀、そんなに苦戦する相手じゃねえだろ。少し鍛錬が足らねえんじゃないか?」
と言い放った直後には白虎は白蛇に噛みつき、ズタズタに喰いちぎっていた。
「まだ本人の意志ではなさそうだけど、班長の言ってた通り良いポテンシャルは持ってそうだな。」と長澤は感心していた。
喰いちぎられた白蛇はドロドロに溶けていった。
くたんと座り込んだ、気の弱そうな女子校生はブツブツと自らが受けた虐めへの恨みを言い続けていたが、長澤が呪符を貼り呪詛を唱えると、蒸発するように除霊された。
「賀茂さんは確かに戦力になりそうだから、まずは”式神”をうまく使いこなせるようになってよ。まさか破敵剣を使わなくて済むとは思わなかったよ。」
現場での一連の出来事は、長澤が見た映像データを本署の「陰陽師班」に送り、3人がモニターで見ていた。
「結構やれそうだな。さすがの血筋ってとこか。
我が班は”プライマリ”の地縛霊への対応が中心だったが、賀茂が加われば、”セカンダリ”への対応案件も増やせる。」
班長は、初日の戦績報告を”ミカヅキ”に送っていた。
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