③「セカンダリ」

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③「セカンダリ」

 遥か昔から地縛霊は存在しており、そこに留まった呪怨(じゅおん)は「今を生きている人」にも様々な影響を与えていた。  2025年の全世界被災を原因に中国から放たれた「山海経(せんがいきょう)」の悪鬼は日本の地縛霊には更なる力を与えてしまった。  そして、最悪なのが神社の被災により結界が破壊され、過去千年以上封印されていた、強大な怨霊の1人が世に放たれた事だった。  あの怨霊(おんりょう)が「山海経」の四凶妖怪と合体してしまうと、国を脅かす最悪な状況になる。  現在の政府である「二宮八省」も頭を悩ませていた。  公安では元来からの地縛霊を「プライマリ」、「山海経」の悪鬼と合体して自由に動き回れる凶悪な呪怨霊を「セカンダリ」と区別していた。  賀茂は初陣以降、もう一人の屈強な班員の、佐久間徹にみっちりしごかれていた。  過去の対戦データから作成された仮想地縛霊との対戦練習を丸一日行なっていた。  地縛霊には「優し過ぎる」故、自ら命を断ち怨霊になったものも多い。 亡くなった者への正しい除霊が常に必要とされている。  常に霊への敬意いは持ちつつ、一瞬の隙でも死が隣り合わせな悪鬼との戦いをどう攻略するかを日々学んでいた。  ある日、「イザナキの地」西部の公安部隊から、陰陽師班への応援要請が来た。  かなりの強力な「山海経」の悪鬼が出没しているらしい。  佐久間と賀茂は現場へ急いだ。 現場に着くと、山海経の悪鬼のうちの1つである、巨大な鳥が鋭い爪で暴れており、地元の公安にはかなりの負傷者が出ていた。 「陰陽師班、来てくれたか。見ての通りかなりまずい戦況だ。」 「見た所、なかなかの強者だ。賀茂、サポートしてやるからアイツの相手をしてみろ。」  賀茂は式札で「白虎」の式神を呼び出した。  また頭の中で声が聞こえる…。 「おい俺の主よ。まだまだお前は俺の実力の半分も出しきれてない。 近頃の式神使いは本来の”式神”の持つ力を忘れている。我々は単なる呪札の化身ではない。  お前の感覚でアイツから”水・火・木・金・土”のどれを一番強く感じた?」 「”火”?…かな。」賀茂が頭の中で答えた。 「一つ教えてやる。五芒星(ごぼうせい)をイメージしながら、直感で感じる相手の属性の対角にあるものを強くイメージしろ。」  賀茂は「火」の反対の「金」を強くイメージした。 「そこに居るのは玄武(げんぶ)(佐久間)だな。お前はコイツの後方支援をしろ。」  巨大な鳥の山海経に向かって「金」を強くイメージすると、鳥の両足に金の足枷がつき山海経がひるんだ。  その隙に白虎に飛びつき噛みついて動けなくしている間に、玄武が甲羅に手足を引っ込めて高速で回転し、鳥の胴体を真っ二つに切り裂いた。  巨大な鳥の山海経はドロドロに溶け、本来の人間の姿をした地縛霊が姿を現した。 「俺はあおり運転の犯人にその場で家族を皆殺しにされた。 犯人を訴えるとメディアに取り上げられ、ネットも社会も高額な保険金目当てのパフォーマンスだと存分誹謗中傷された。俺は普通の幸せな生活がしたかっただけなのに…」  佐久間は呪詛(じゅそ)を唱え呪符を貼り、地縛霊を除霊した。 「俺だけに関わらず、式神を扱うものは全開でそれぞれの力を発揮させろ。」 白虎はそう言い残して消えていった。  賀茂の頭の中では、ミクロな素粒子から、電子が周りを飛び回る原子、DNAの塩基配列のぎっしりつまった細胞、カラダ全身で情報をやりとりしている臓器、自分のサイズまでの「カラダ」の構成についてのイメージが強く描かれた。  白虎が式神の本来の扱い方のヒントを残していってくれたのだろうか。  時を同じくして、東の「イザナミの地」では大変なことが起こっていた。
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