さくら

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 週末、僕は彼女と二時間ちょっと電車に揺られて、地元に帰ってきた。買ってきたケーキを広げたものの、席に座ってから緊張しっぱなしの僕を見て、母は呆れ年の離れた妹はからかい、そして二人は彼女を笑顔で迎え入れた。三人が談笑をしている間に席を立った僕は、仏壇の父に手を合わせてきた。  父は笑わない人だった。失敗にも厳しく、父によってあまりいい思いをしなかったし、父もまた、僕によって笑顔にもなれなかっただろう。学生時代に失敗を重ねた僕は、父の顔もろくに見ずに地元を出ていった。父には合わせる顔がないと思って、滅多に地元に戻らなかった。  それでも、社会にもまれ、成功も増えて、彼女とも知り合って、ちょっとは大人になれたつもりだよ、と少し自慢げに話せるだろうと、年末に帰省を予定していた冬、父は突然他界した。なにも言えなかった。その夜も、高校の教室に戻ってしまった。  僕はまだ子どもなのだろうか。仏壇の前でその夜と今の自分とを比べてしまう。黙って動けなくなった。  その姿に気づいた彼女は、隣に来て何も言わずに、父に向かって手を合わせてくれた。
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