第1話 のたれ死にだけは勘弁してくれ

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 俺は慌てて身体を起こした。そして見間違いじゃないだろうな、と自問自答しながら、その方向へと足を動かした。  少しばかりうずたかくなった雪のなだらかな曲線に、どうやらそれは隠れていたらしい。  回り込む。ざくざくと音を立てて、雪を踏みしめた。  俺は足を止めた。見下ろす。  そこには、確かに赤があった。俺は目を見張る。  真っ赤な服。  見事なまでの銀色の髪を耳の下あたりで無造作に切った――― 人間が、大きく手足を伸ばし、寝そべっていた。 目を閉じている。 「何やってるんだ?」  俺は思わずそう訊いていた。他に聞きようが無かった。そしてゆっくりと、瞳が開かれる。俺は目を見張った。  そこにも、赤があった。  大きく見開かれた瞳は、―――真っ赤だった。 「別に」  低い声が耳に届く。  男か、とやや俺は落胆する自分に気付く。  実際、目にその姿が飛び込んだ時、俺はまず性別の区別に混乱した。  その等身からして、いいところ俺の肩くらいしかない。  耐熱防寒の効いたその真っ赤な服は、ヴォリュームがあるのだが、ありすぎて、逆に中身の小ささ細さを強調してしまう。  目に飛び込んだのは、この服の赤だった。思えば、それはこの相手の姿を予告していたのもかもしれない。  真っ赤な色の目。 「……お前」 「うるさいなあ」  そして突然、ひどく不機嫌な顔をしてこいつは起きあがる。軽く頭を振ると、髪についた雪が、ぱさ、と音を立てて落ちた。 「せっかく誰もいない場所で、静かで気持ちいいと思ったのに」  気だるく、溶けそうな声だった。  雪を払いながら奴は立ち上がる。  確かに小柄だ。思った通りの背の高さしかない。  ぱっと俺の方を見ると、間髪入れずに言った。 「変な格好」 「何」  思わず奴の方を見た。  真っ赤な瞳と正面からぶつかる。だが力は無い。  その大きな目は、眠そうに半ば伏せられている。 「すっげえよせあつめ。珍しい感覚だな」 「悪かったな。これしか無かったんだよ」  ふうん、と奴はうなづいた。口に出してはみたが、大して興味のあることではないらしい。  それより、と俺は切り出した。 「何?」 「お前、―――まさか、『銀の歌姫』種じゃないか?」 「そうだよ」  あっさりと答える。 「見れば判るだろ」 「そりゃ、そうだが」  だが。 「それとも、珍しい?」  俺は、言いかけようとした口を閉じた。  奴の言うことは間違ってはいない。聞き覚えしか無いこの種族は、ひどく珍しかったのだ。
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