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俺は慌てて身体を起こした。そして見間違いじゃないだろうな、と自問自答しながら、その方向へと足を動かした。
少しばかりうずたかくなった雪のなだらかな曲線に、どうやらそれは隠れていたらしい。
回り込む。ざくざくと音を立てて、雪を踏みしめた。
俺は足を止めた。見下ろす。
そこには、確かに赤があった。俺は目を見張る。
真っ赤な服。
見事なまでの銀色の髪を耳の下あたりで無造作に切った――― 人間が、大きく手足を伸ばし、寝そべっていた。
目を閉じている。
「何やってるんだ?」
俺は思わずそう訊いていた。他に聞きようが無かった。そしてゆっくりと、瞳が開かれる。俺は目を見張った。
そこにも、赤があった。
大きく見開かれた瞳は、―――真っ赤だった。
「別に」
低い声が耳に届く。
男か、とやや俺は落胆する自分に気付く。
実際、目にその姿が飛び込んだ時、俺はまず性別の区別に混乱した。
その等身からして、いいところ俺の肩くらいしかない。
耐熱防寒の効いたその真っ赤な服は、ヴォリュームがあるのだが、ありすぎて、逆に中身の小ささ細さを強調してしまう。
目に飛び込んだのは、この服の赤だった。思えば、それはこの相手の姿を予告していたのもかもしれない。
真っ赤な色の目。
「……お前」
「うるさいなあ」
そして突然、ひどく不機嫌な顔をしてこいつは起きあがる。軽く頭を振ると、髪についた雪が、ぱさ、と音を立てて落ちた。
「せっかく誰もいない場所で、静かで気持ちいいと思ったのに」
気だるく、溶けそうな声だった。
雪を払いながら奴は立ち上がる。
確かに小柄だ。思った通りの背の高さしかない。
ぱっと俺の方を見ると、間髪入れずに言った。
「変な格好」
「何」
思わず奴の方を見た。
真っ赤な瞳と正面からぶつかる。だが力は無い。
その大きな目は、眠そうに半ば伏せられている。
「すっげえよせあつめ。珍しい感覚だな」
「悪かったな。これしか無かったんだよ」
ふうん、と奴はうなづいた。口に出してはみたが、大して興味のあることではないらしい。
それより、と俺は切り出した。
「何?」
「お前、―――まさか、『銀の歌姫』種じゃないか?」
「そうだよ」
あっさりと答える。
「見れば判るだろ」
「そりゃ、そうだが」
だが。
「それとも、珍しい?」
俺は、言いかけようとした口を閉じた。
奴の言うことは間違ってはいない。聞き覚えしか無いこの種族は、ひどく珍しかったのだ。
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