第2話 電波の壁が、彼らに遠くまで届く声を与えた

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 何故か「閉じた」ものには引き寄せられるのも人間である。  戦争がまださほどひどく無かった頃、それまで他星と交流が無かったメゾニイトに、「使者」と名乗る者が入り込んだ。  それが何か高尚な意図を持っていたのか、ただの冒険者なのかは判らない。とにかく確かなのは、彼らがそこで、電波障害の中でも遠距離通信が可能な、色素の薄く、美しい種族を見付けたことだった。  メゾニイトの人間にとっての不運は、「使者」から見付けられたことではない。たまたま見付けた「使者」が、彼らの利用法を思いついてしまったことだった。  移民してからこの方、閉じた惑星で平和に過ごしてきたこの惑星の人間達は、突然の訪問者を疑うことを忘れていた。そして「使者」達は、その扱いやすい人間達を手玉に取った。  やがて、この惑星には少ない文明の利器を入れる代償として彼らは人的資源を要求した。  無論その時も、甘い言葉は忘れない。この惑星から初めて出ることができることに、歌姫達は喜んだ。  だが、その結果は無惨なものだった。  歌の上手な美しい鳥は、歌を強要され、各地を引き回された。あげく、くたびれ果てて故郷に戻った途端に命を落とすことも多くなる。  気付いた時には遅かった。惑星を閉じようと、残された「歌姫」達は、共鳴能力と、この惑星自体の電波障害を利用して、入ろうとする輩を撃退しようと思ったが…  時既に遅し。  その星域も、戦争の中にあった。惑星メゾニイトも例外ではなかった。  武器をその手に持たない彼らは、抵抗もできず、捕らえられ、ちりぢりにされたあげく、自星の大地が燃えていくのを見た。  暗い惑星で彼らを暖めた火山が爆発する。惑星そのものが、侵略者に対して怒りを吹き出していたかのようだったという。  そして故郷から一人残らず連れ出された彼らは、更にひどい運命をたどることになる。  「うたうたい」として、各地の電波に声を乗せる者はまだよかった。  まだ良かったはずだ、と俺は思う。  だが、それだけでは済まなかった。その共鳴能力は、別のことに使われ始めたのだ。すなわち、プロパガンダ。  各地で上がる火の手。様々な主義主張を持つ各惑星の軍。反乱組織。惑星同盟。  その先鋒で、その地の民衆の志気を高めるために、彼らは使われた。マイクの前に、立たされた。その声を、電波に乗せさせられた。  歌ではなく、声が、必要とされた。  飼い主を褒め称える演説。賛美する言葉。共感を強要する声。  これは自分の声ではない、と心の奥深くで思いながら。  だが「歌姫」達の能力は「共鳴」だから、違うことを考えることは許されない。少なくとも、その歌に、声に、浮かび上がる程の表層で考えていることはできなかった。それが判ると、歌姫達は罰を受ける。  彼女らはその時、自分の考えすら、押し殺されていた。  心にも無い言葉を、声を、ただ生きるために、精一杯の意志で流さなくてはならなかった。  だが、無理な飼い方をされた鳥が、そう長く生きる訳がない。  そして、そのように使われた「ペット」が反対勢力からいい目で見られる訳がない。  彼女らの大半はくたびれ果て、あと半分は、決して愛しくもない飼い主のために殺されていった。  現在では、殆どその存在は確認されていない。その惑星を無理矢理捨てさせられた時、その惑星に適応すべき遺伝子は、急激に変化をとげ、「歌姫」の属性を無くしていったのだ。
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