転生して二度目の結婚生活!孤児院育ちの奥様は身分違いの旦那様の凍った心を溶かしたい!

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 赤毛のメイドはアンリと言う名前で、打ち解けてしまえば、とても明るくておしゃべり大好きな人だった。 「コック長が奥様は好き嫌いなく食べてくれているため、嗜好がわからないと言ってます。一度、話したいそうですよ」  私も厨房を見てみたかったので、喜んで行くことにした。 「俺は〜♪オシャレなコックさーん♪」  はい? 「美味いものを作る〜♪テーンサーイっ!テーンサーイ!Oh〜Yey!」  ………私はアンリに、あれはなんの生き物かしら?と尋ねた。慣れているらしく、淡々とアンリは返事をした。 「コックという生き物です」 「おいっ!……来たら来たと言ってくれないか?」  私達が来たことを知らなかったのね……イケナイモノを見てしまった気がした。 「コック長というので、もう少し歳をとった人を想像してたわ。いつも美味しいお食事、ありがとう」  黒色の髪、顎に無精ひげのある青年はえっ!?と驚く。 「いやぁ……礼を言われると思わなかったな。ラズと言います。以後お見知りおきを。えーと、奥様の好きな食べ物ってなんですかね?毎食作っていても、奥様は綺麗に食べてしまうので、わからないんですよ。要望は?とか聞いても『なんでも食べます』としか返ってこないし」 「好き嫌いはないの。食事に不満もないわよ?」  アンリがクスクス笑う。 「奥様、それは余計に困ります。せめて、なにかお好きな物をおっしゃればいいかと」  私はうーんと考える。好きな物?孤児院での暮らしは子どもたちの飢えをどうしのぐか?そればかり考えて料理をしていたので、美味しいお食事を作ってくれて、食べられるだけで、もう幸せなんだけど……。 「甘いもの……甘いものは大好きよ」  砂糖は貴重で高くて、なかなか手にはいらない。ごく稀に手に入る安い果物やドライフルーツを入れて工夫したおやつを孤児院で作ってあげていた。もちろんセレナの時はお茶会でよく食べていたけれど……。 「ふーん、そうか。デザートに力をいれよう」  顎の無精ひげを触りつつ、コック長のラズはそういった。 「あの……良かったら、私にもなにか甘い焼き菓子を一緒に作らせてくれない?」  へっ?とラズが私の意図がわからないらしく、説明を求める顔をした。 「アデル様も甘いもの好きかしら?久しぶりに私もなにか作りたいの」   「旦那様に?あまり甘いものは好きではないですけどねぇ」 「あら?そうなのね……じゃあ甘さを控えめにして作るわ」  私は厨房の片隅を借りて作り出す。甘くて香ばしい匂いが漂ってくる。何を作ってるんです?とアンリが覗き込む。 「うーん……たぶんこんな感じだと思うのよね。うまくいってると良いんだけど」  鉄板を出して冷ます。セレナの時にお茶会をする時あった、お気に入りのナッツクッキー。いろんな実を砕いて入れて、ナッツの甘みで砂糖を控えめにしている。作り方は普通のクッキーとあまり変わらないと思うんだけど。 「味見してみましょう」  私はラズとアンリにもナッツクッキーを1枚ずつ渡す。まだ冷めきらず、温かい焼き立てクッキーはいい匂いがした。 『美味しい!』  二人が齧った瞬間、嬉しい反応をしてくれた。私もカリッと食べる………うーん。サクサクしてて、香ばしく、ほんのり甘さが後から出てくる。美味しいけど、やっぱりセレナの時に食べた本格的なクッキーとは少し違う。さすがに王女の身でクッキー作りなんてしなかったから……孤児院で料理していただけの私のレベルでは到底無理。 「でも私の実力じゃ、こんなものよね」  悔しいわ……と呟くと、ラズとアンリは十分美味しいですけど!?と言っている。  二人の反応に勇気をもらい、アデル様にもおすそ分けですと渡してみることにした。帰ってきた彼は甘いものは苦手だと顔をしかめたが、お皿の上のナッツクッキーを見て、しばらく沈黙した。目が少し揺らぐ。 「アデル様?……夕食後のデザートなり、夜食にお茶のお供になりして頂けたらと思います。甘いものは苦手と聞いたので、ナッツで……え?」  夕食前なのに1枚手に取り、ジッと穴が開くくらいクッキーを見ている。 「ナッツクッキーか?これをおまえが作ったのか?ラズじゃなく?」    そうですと私は頷いた。  クッキーを持って行ってしまう。喜んでいたのよね?今のは喜んでくれてたわよね?  謎だわ……。  その数日後、ナッツクッキーがラズによって作られたのだった。   「旦那様がやってきて、クッキーに足りないものは……っていきなり言い出したんですよ。まあ!ほぼテンサイコック長の俺の力ですけどねっ!」   はいはい。天才、天才ね。と軽く私が流すとちょっと寂しげなラズだった。  それよりも……これをアデル様が?私は1枚クッキーを手に取り、サクッカリッと音を立てて食べて、ピタッと止まった。  そのクッキーはセレナの時に食べていたものと酷似していた。私はジッと穴が開くくらいクッキーを見つめたのだった。
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