陛下を捨てた理由

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「美しいですわ、ジェリット様」 ジェリットの髪飾りをつけ終えて、メイラードはほうっと溜息をついた。 彼女の視線の先には、白いウェディングドレスを身にまとい、はにかんだように微笑むジェリットが朝日を浴びて輝いているように見えた。 「ドレスが綺麗だからそう見えるのよ、メイラード」 「いいえ、そんな事ありませんわ、着る人が輝いてこそこのドレスの美しさは増すのです。きっとゼツィオード様も同じことをおっしゃいます!」 「ふふふ……ありがとう」 メイラードはジェリットに真剣な顔をして訴えると、ジェリットは照れたように頬を染める。 チークをしていなくてもわかるほど真っ赤に染まった頬をみて、メイラードは娘を嫁にやる父親の気持ちがわかったような気がした。 「さあさあ、主役が現れるまでもっと美しくしましょう」 両手に筆をもってメイラードはジェリットににじり寄る。 これから手を加える美貌にどんな色を合わせようかと考えすぎたあまり、結局王道に落ちついたメイラードは必要最低限の化粧を施していく。 「私はずっとこの日が来る事を待ち望んでいました」 伏せられたジェリットの長い睫毛を一本一本カールさせながらメイラードは呟くように訴える。 「お嬢様の努力が実を結んで、花となるその瞬間を一番近くで支えられた事に後悔はございません」 「メイラード……」 ジェリットの唇にたっぷりとグロスを塗り、メイラードは仕上げの香水をひと振りする。 立ち上るチューベローズの濃厚な甘さと艶やかな香りを纏ったジェリットは瞬きするのも惜しくなるほどで、メイラードは自分の腕と素材の良さに感嘆の吐息を吐いた。 そんな時、突然扉が開いてジェリットの身体に小さな衝撃が走った。 「ママ……」 ずっと、外で待っていたはずのターニャが泣きそうな顔をしてジェリットのドレスに抱きついていた。 「こら、ターニャ!ママのドレスにしわがついちゃうだろう」 そう言ってターニャを追いかけてきたロベルトはジェリットを見て口を大きく開いた。 「……とても綺麗だママ!天使様かとおもっちゃった」 「ありがとう、ロベルト。ターニャも待たせちゃってごめんなさいね」 5歳になったばかりとはいえ、ターニャにとっては見知らぬ場所で我慢するのも限界だったのだろう、3歳違いのロベルトも緊張していたのか、ジェリットにターニャとそろって頭を撫でられると大きな瞳から雫が零れそうになっていた。 「お前達だけずるいぞ……」 子供達に褒められ、抱きしめ合っていると拗ねた声が扉から聞こえ、ジェニエルは子供達と声をそろえるようにして夫の名前を呼んだ。 「「パパ!」」 「ゼツィ……」 「メイラードに任せて正解だったな、とても綺麗だジェニー」 子供達二人とゼツィオードに抱きしめられ、ジェニエルは幸せを実感する。 ――ああ私、貴方を捨ててとても幸せよセオドール。
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