チョコレートキス ケイサイド

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「やーなこった!そんなの知りたけりゃ有料コンテンツで別料金いただきますー」    またごろーんとベットに寝転がるイツキさんの横に僕も寝転がり両手をあわせる。    「イツキさーん、イツキさんは困ってる弟を見捨てるの?僕らの楽曲になるんだよ、これぇ。まあ、ハルさんにボツにされるかも知れないけど……。イツキさーん、僕の6時間が無駄になるぅ。」    ううん、と唸ってイツキさんの肩辺りをポカポカ叩いてみる。    イツキさんは、心底厭そうな顔、本日2回目を発動してたけど、   「あっ、」    といって僕の顔を見つめ直して、ニヤリと笑った。    え?なにこの悪い笑い。厭な予感しかしない。    ちょっとひきぎみに体を縮めた僕を、イツキさんは、後ろの壁に追いやるように、ぐいっと近づいてくる。   「そこまで、ケイがいうなら、教えてあげないこともないよ。」    そこで急にベットから起き上がりながら、イツキさんが振り向いて、ニコッと無邪気な笑顔を見せる。厭な予感しかしない、2回目。   「但し、実体験を交えてね。」    オモチャを与えられた子供のように、彼の瞳がキラキラし始める。これは、まずい傾向。落ち着かせないと。   「イツキさん?イツキさん?実体験は可笑しいでしょ、落ち着いて、僕は話だけで充分、て、なに帰ろうとしてるんですか!?セーターも上着もおいて、ほら、ね。そだ、ケーキ、ケーキを食べましょう!コーヒーまた持ってきますよ!」    慌てて部屋を出ようとする僕の腕を引き寄せて、彼は僕をベットの縁に無理矢理座らせる。   「お前…………、チョコレートキスって知ってる?」    イツキさんの瞳は僕から3センチ。もちろんその綺麗な顔を直視できるはずもなく、あたふたしながら、イツキさんから離れようとするが、両腕をガッチリホールドされている。   「なんですか?それ?」    チラッとだけイツキさんをみやって、僕が聞くと、彼は嬉しそうに、耳の近くで囁いてくる。   「チョコレートを口に含んだ状態でするキスを、チョコレートキスと言います。甘いチョコレートを口に含んでいるため、よりいっそう甘美で特別なキスになるでしょう。」    そこで意地悪なイツキさんは僕の表情を確かめるために、身体を離し、真っ赤になった僕の反応を楽しむように笑う。   「恋人同士でチョコを食べると、キスの4倍も脳が興奮するという研究結果もあるらしいから、僕らはもう、キスの4倍興奮にしてることになるね?ケイ?」   「イツキさん、僕らは恋人同士じゃないから、興奮してませんよ。」    はっと笑って、わざと冷静な振りでイツキさんを突き放すような言い方をする。    普段はそれで悪ふざけをやめるイツキさんなのに……。   今日は、引かないつもり、みたいだ。未だ僕を掴む両腕は緩まない。それどころか僕をまっすぐ見つめたまま、目をそらす気すらない。   「まぁ、お前が厭なら、やめとくけど。甘いキスにぴったりだと思ったんだけどなー、うん、まぁいい歌詞が書けるといね、せいぜいひとりで苦しみな、ケイ?」    突然腕を離し、また上着を持って立ち上がろうとするイツキさんの腕を、今度は僕が慌てて掴んでしまった。   「わかった!わかった、イツキさん!お願いします、教えてください!」    チョコレートキスがどんなに甘いものなのか?そのキスをしたら、僕もイツキさんのことをそういう風にみてしまうのか?一般的な恋人たちはどんなキスをしてるのか?好奇心と興味、そして歌詞の書けないプレッシャー。いろんなものが混ざったまま、僕はふたつ年上のイツキさんを見上げる。  
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