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鈴木とは二時間ほどでお開きになった。自宅に戻ると、娘の洋子がリビングでお茶を飲んでいた。聡子の姿はなかった。
「洋子来てたのか」
「来てたのかじゃないでしょ、心配で来てあげたの! 飲んできたの?」
「ああ、お母さんもいないし」
「なに? やけ酒?」と、笑う。
「なんだおまえ、ケンカ知ってたのか?」
「知ってるよ、お母さんから聞いて。なんか暴言吐かれたって怒ってた。今ごろ高級ホテルで羽伸ばしてるから明日には帰ってくるよ。それよりお父さんに、いや、お爺ちゃんに報告があります」
「おじいちゃん……? あっ……!」
「うん。二ヶ月だって、昼間検診に行って」
「そうか! おめでとう! そうか……よかった……」
すぐに下の瞼が潤んで手の甲でぬぐった。
「だからケンカなんかしてる場合じゃないでしょ。お母さん帰ってきたらすぐ謝ってよ」
「ああ、そうだな……」
「そうよ。ジジババのケンカは孫も食わないわよ」
「そうだな……お母さんは知ってるのか?」
「お父さんより前に相談してたから、もちろん知ってるよ」
「そうか、そうだよな……」
その後一時間ほどで洋子が帰ると言ったので、車で送って行った。
自宅に戻り寝酒を飲みながら、ため息をついた。自分が知らないところで娘と妻は初孫の話をしていた。娘が母親の先輩である聡子に相談するのは当然のことで異論はなかったが、自分には結果報告だったのが寂しい気がしたし、鈴木さんの絵の上達ぶりにも、自分だけが退職のときから時間が止まっているような焦りを覚えた。
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