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9
有羽は、ぜえぜえと息を切らせながら長い睫毛を押し上げた。
顔を上げた彼の深すぎる月影の双眸が、有羽を見据えていた。
冷厳な瞳から逃れようと、有羽は目を逸らして零れ落ちた涙を拭う。
困惑する黒真珠色の瞳に、彼の肩越しから形のいい月が映った。
薄闇ながらも、うっすらと銀色を帯びている。
天に浮かぶ美しく神々しい望月。
有羽は、幽玄な姿を意識し、思わずごくりと生唾をのみこむ。
「有羽、大人しくしていろ」
「え?」
「これから先、無理はしてはいけない。私が有羽のことは守るし、必ず迎えに行く」
彼の琥珀色の指先は、まるで花を愛でるように、有羽の頬を優しく撫でる。
「あなたは、一体……?」
何か言いかけた小さな唇を絡め取るように、彼は唇を重ねあわせた。
「んっ!」
今度は先程とは違い、舌を絡ませてくる艶やかな感触。
思わず目を閉じた有羽は、甘い吐息をこぼす。
そして次第に、有羽の意識は途切れていく。
抗うこと叶わずに、有羽は深い眠りへと誘われたーー。
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