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10
有羽を庇護しているジェラート家の長子、リュシオンは固唾を呑んで立ち尽くしていた。
有羽と朝食を取る約束をしていたリュシオンは、朝食を運ぶ侍女とともに離れにある彼女の部屋へ来たが、室の中からは返事がない。
両親が昨日から不在で屋敷のマスターキーを預かり持っていたリュシオンは、全く返事のない有羽の部屋へ警戒しながら入れたが、室内には誰もいなかった。
心当たりがあったリュシオンは、慌てて有羽の部屋から飛び出す。
風に靡くリュシオンの髪は綺麗な金茶、心配そうに歪む清雅な碧眼を覆う長い睫毛は、一本一本完璧に整っている。
高い鼻梁に鮮やかに輝く白蜜の肌は、細身ながら精悍な肢体を覆っていた。
ジェラート家のただ広い庭園を駆け抜けたリュシオンが辿り着いた先は、自然の森の奥にある湖。
そのほとりに横たわる有羽に、リュシオンは思わず呆然としてしまった。
その胸がかすかに上下しているのを確かめなければ、死体かと思うほどの深い眠り。
愛らしい花びらのような唇が、ほんのり開いていた。
朝のひんやりとした、湖のほとり。
しっとりとした綾絹のような黒髪が波打って広がり、柔らかい布か何かのようである。
それは眠る有羽を、ますます神々しほど美しく煌めかせていたーー。
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