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11
「んん……」
少しして、有羽は目を擦り合わせながら身じろいだ。
「起きた?」
我に返ったリュシオンは、ゆっくりと歩み寄って優しく声をかける。
「!」
目に飛び込んできた優美なリュシオンの姿に、有羽は瞠目している。
「有羽、大丈夫?」
片膝をついたリュシオンは、心配そうにきいた。
「……あの、私どうして?」
我に返った有羽は、慌てて半身を起こして首をめぐらせている。
「俺がききたい。有羽が部屋にいなくてびっくりしたよ。朝食を一緒に食べる約束をしたこと、忘れたの? 有羽は」
緊迫した有羽や自分を落ち着かせるように、リュシオンは軽やかに言う。
「……約束したこと、忘れていないわ。でもどうしてここにいるのかは、覚えていない……」
有羽は、言葉を詰まらせると、細かく華奢な身体を震わせる。
「覚えていないって……。まあいい。さあ、有羽。部屋へ戻ろうか」
そう言って、リュシオンは素早く有羽の膝裏へ自分の手を伸ばすと、彼女を抱き上げてそのまま起き上がる。
「リュシオン兄さん……」
有羽は、目を瞬かせている。
「こんなところに朝早くいては、身体が冷えてしまうよ。部屋に戻ろう。有羽」
「わ、私、自分で歩けます。大丈夫です」
有羽は、しどろもどろに言う。
年明け頃からようやく敬語は抜けてきたが、有羽はまだまだよそよそしいところがある。
それに気づいたリュシオンは、嘆息をついてそのまま歩き出した。
「嫌だ。有羽って全然敬語が抜けてないしね」
「そ、そんなことは……」
「有羽、何も気にしないでジェラート家にいて。でもね、朝早くから一人でここにいるのは誰も感心しないから、できるだけ気をつけてね」
リュシオンは、念を押して軽やかに森を抜けてゆく。
「……わかりました。気をつけるわ」
有羽は、リュシオンの強引で決めたらどうしても引かない性格を知っているのか、小さく頷いて言ったーー。
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