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第二章〜夏の報せ(名波兄弟)
第二章〜夏の報せ(名波兄弟)
1
有羽の失われたあの日の記憶は戻らないが、それから何事もなく穏やかに初夏は過ぎ去っていった。
季節は、汗ばむ夏真っ盛り、七月中頃になっていた。
多忙なリュベルトだが、相変わらず書庫にこもることの多い有羽を時間があれば頻繁に、本邸にある自室のリビングへ呼び寄せてくる。
今朝も朝食を運んできたメイドから報せを受けた有羽は、一人で昼過ぎに書庫から出て本邸へつながる幅広い通路へ向かう。
有羽自ら行くことはないが、誘われてリュシオンの部屋へ遊びに行く時も含め、以前のようにメイドに付き添われることもない。
有羽は、許される範囲内だが、ジェラート家敷地内本邸含めて、一人で自由に行き来するようになっていた。
リュベルトと同じくらいに忙しいリュシオンだが、自分に時間が出来れば有羽と一緒にいてくれる。
ジェラート家の深い愛情に包まれ、次第に落ち着いてきた有羽もよく笑うようになり、屋敷に働くもの含めて皆揃って、以前よりも気楽に話してかけてくれた。
まだ正式ではないが、家長であるリュベルトの大切な娘として、有羽をジェラートの家族の一員のように考えてくれるようになっていたーー。
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