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有羽は、絵の飾られた廊下をずいぶん歩いて、突き当たりのぶ厚いドアをノックした。
「どうぞ」
リュシオンとよく似たリュベルトの甘く掠れた美声がきこえ、有羽はドアを開けた。
そこは三十畳の広さのリビングルームで、壁には大きな絵が掛けられていた。
ゆったりとしたいくつもの応接セットの間には、ブロンズ像と観葉植物が配置されている。
膝掛け椅子の上にリュベルト、その隣にリュシオンが立っていて、すらりとした身体を窓辺にもたせかけていた。
可憐なレース模様のカーテンを通り抜けた光が、リュシオンの気品のある優美な肢体を縁取り、絨毯の上には彼の美しいシルエットを描いている。
「失礼します。リュベルト父さん、お久しぶりです」
有羽は、ドアを閉めて中へ進み出て、華艶に一礼した。
「久しぶりだね。有羽、そこへ座ってくれる?」
「は、はい」
有羽は、リュベルトに指示された彼の真正面に置かれている長椅子へ腰を降ろす。
リュシオンは、窓辺から体を起こすと、有羽のもとへ行き、慣れた様子で隣に座った。
「数日前かな? 連絡があってね、名波家長男の宏人君から」
「え?」
有羽は、リュベルトの言葉に驚愕して目を見開く。
「名波兄弟が、夏休みにジェラート家に有羽の様子を見に遊びに来るそうだよ」
「は?」
考えてみなかったことに、思わず有羽は素っ頓狂な声を上げる。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃないのか? 有羽」
「びっくりしますって。兄さんたちはまだ学生でしょう? それぞれ武道に夢中のはずですよね?」
「末の守君だけは、残念ながら来れないそうだ。夏の合宿で今後のレギュラーがかかっているみたいで」
リュベルトは、うんうんと頷きながら言う。
「そうでしょう? ならば他の三人もそんなひまなんてないと思いますが?」
「確かに、宏人君は学びたいものがあるから大学院へ行っているらしく、学業と仕事を兼ねて忙しい。だが遅れても絶対にここへ来ると言っていた。他の二人は、部活動をしてないし先にジェラート家へ来るようだ」
「ど、どうして?」
「三人に会って、その理由は直接有羽がきいたらいい」
有羽の慌てぶりにリュベルトは、口元を苦々しく歪めながら言う。
「あ、会えません。だって私のせいで宏父さんを……」
「前にも言ったが、それは有羽が気にすることじゃない」
「でもっ!」
有羽は、顔を歪めてうつむき、全身を小刻みに震わせて涙を堪えていたーー。
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