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有羽は、十四歳の誕生日を春に迎え終えていた。
あれから何事なく春が過ぎて初夏が訪れる頃、有羽はジェラート家にある自室のリビングの奥にあるテラスにいた。
三階にあるその部屋は、とても見晴らしがいい。
有羽は、艶を帯びた綾絹のような黒髪に東洋大陸系の温柔な顔立ちは大人しげで、神秘的な黒真珠の瞳は憂いに満ちている。
しばらくの間、有羽はうっとりと黒真珠の瞳を細めていた。
やがて意を決したように、有羽は長い睫毛を押し上げる。
ゆっくりと、空を仰ぐ。
天に上がる弓を思わせた銀の刃は、見る間に光を得てゆく。
それは半月となり、さらに光を集ませて望月となる。
欠けることのない、まったき姿を取り戻す夜。
空には、丸い銀色の月が昇っていた。
有羽以外には誰もいない静寂な場所で、彼女は全身を小刻みに震わせていたーー。
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