第一章〜カレー味の行き先(雅)

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5 雨音がはじまると、あっという間に雨粒が矢のように変わる。 それは、林道を走り抜ける黒塗りのベンツを叩いた。 凄まじい雷雨は、ガタガタと吹き飛ばされそうな音とともに、速度を落とすこともない車体を揺らし出す。 その間、まばゆい稲妻が何度も弾けた。 刹那、ひときわ大きな閃光が車を照らす。 同時に、落雷音が切り裂くように鳴りはじめる。 その衝撃で車は、ぐらりと大きく左側へ傾いた。 凄まじい破裂音とともに、今度は右側の後部座席のドアが大きく開く。 風と雨粒が車へ叩きつけるように、車内へ吹き込む。 同時に、車の中で光が瞬く。 それは、一筋の光と変わる。 それとともに、車外から飛び出してくる一人の少女の華奢な肢体。 見事な綾絹のような黒髪は、乱れ舞い散るままに、黒塗りのベンツから離れる。 そして、宙へ上がっていった。 有羽は、攫われた時に抜けた意識を取り戻していて、全身を覆う強烈な光の感触を感じていた。 その間に車は、ぐるぐると滑るようにアスファルトに横転する。 それは、舞い上がった有羽から通り過ぎて行く。 光の渦の中ながらもどうにか目を開け、その様子を見た有羽は固唾をのんでいた。 「!?」 驚愕している有羽の視線の先へ映るもの。 それは風雨駆けめぐる中、転がる車とすれ違うように、一頭の見事な漆黒の馬がいっきにまっすぐ有羽へ駆けて来た。 「な、何?」 馬上には人影が見え、見事な藍色の髪を舞い上がらせていた。 降りかかる激しい雷雨に少しもひるむことなく黒装束を身にまとう彼は、まっすぐ有羽へやってくる。 風で宙を彷徨う華奢な肢体へ、馬上の彼は琥珀色の腕を伸ばした。 いともやすやすと、自分の胸の中へ有羽をさらった。 その後漆黒の馬は、車道の脇にある林の中へ駆けて行く。 やがて、車の爆発する音とともに、地鳴りが後方から響いた。 爆発音と突風が吹き抜けるようなあっというまの所作に、有羽は呆然としていたーー。
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