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春はまだ遠く ※
「……ひぃ…あぁ、んぅ……」
合わさった唇から時折りこぼれるくぐもった声が雛菊の耳を犯す。唇を舐め、わずかにあいた隙間から舌を差し込まれ、優しく舌を絡めとられる。そして、時折り絡められた舌を強く吸われれば、背を得体の知れない痺れが駆け抜け雛菊の背をしならせた。
己の意思で雛菊は宗介を押し倒したはずなのに、いつの間にか体勢は入れ替わり、畳へと仰向けになった雛菊を押さえ付けるかのように宗介が覆い被さっていた。帯は解かれ畳の上へと花の川を咲かせる。黒打ち掛けの上へと赤い長襦袢で横たわる雛菊を見下ろす宗介の喉がごくりと鳴った。
宗介の唇が啄むように雛菊の唇をふさぐ。口角へと落とされた口づけが顎へと落ち、首筋をなぞる。ゆっくりと下へ下へと降りていく口づけに、雛菊の唇からも甘やかな叫声があがった。
「はぁぁ……、あぁ……いぃ……」
長襦袢の衿は大きく開かれ、まろみを帯びた双丘と艶かしい脚がわずかにのぞく。かろうじて腰紐が絡みついているだけの襦袢は、もはや身体を覆う役割を果たしていなかった。
宗介の唇が鎖骨を通り隠された双丘へとおりていく。それと同時に無骨な指先で、上肢の柔肌に爪を立てられれば、その強い刺激に雛菊は喉をのけぞらせ叫声をあげた。
雛菊の双丘の谷間に紅い花が咲く。紅い花が咲くたびに感じるピリっ、ピリっとした痛みが、身体の奥底を潤ませていく。それと同時に上肢を這い上っていく指先に脚の付け根を強く押されれば、ジンワリと秘部に熱が伝わり和毛に隠された二つの花弁からトロッと蜜が溢れ落ち襦袢を濡らした。
「ぬ、主さん……、も、もう……」
「――雛菊、名を呼べ。宗介だ。宗介と」
耳元で切迫つまった声が聴こえ、その艶かしい響きに雛菊の背がふるえる。
「はぁぁ、そうすけ、はぁ……んぅ……」
滲んだ視界にうつる男の顔はぼやけて見えない。
(ねぇ、銀さん……、あっちを抱いておくんなんし)
震える手を伸ばした先に銀次の顔が見える。
(やっと、やっと……、想いを遂げられる……)
ぎゅっと握られた手の熱さとは裏腹に降り注いだ冷たい声に、雛菊の喉がヒュっと鳴った。
「なぁ、雛菊……、お前は俺に誰を見ている?」
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