25人が本棚に入れています
本棚に追加
平和とは、母の胸に抱かれた赤ん坊が見せる笑顔の様な物ではないだろうか。
見る者の中の邪念や悪意を優しく包んで消し去ってしまう、けがれなき天使の微笑み。
誰もがその尊さを讃え、その未来に祝福の言葉を贈るだろう。世界の中心があるとすれば、その瞬間は間違いなくそこにある。
だが、それは突然泣き顔に変わってしまう。
誰も悪くなくても。誰も望まなくても。
『アラシ、気をつけろ!今回の「X」は私も見た事も聞いた事も無いのだ!
現在のところ彼等の正体も目的も不明だ!』
「へええ、ズートル博士にも知らない事があるんだな。ちょっと安心したよ」
非同盟惑星からの異星人、または宇宙生命体の接近。緊急事態レベル7発令中。
かつてニッポンという国だった地域の阿蘇山近辺に集まった地球守護部隊。
その先頭に立ち、リーゼントを掻き上げながら遥か夜空の向こうを見つめているのは、このエリアの部隊長であるアラシ。
彼らは一見、防護スーツと光線銃で武装した青年団にしか見えないが、超合金や特殊なシリコンで造られたボディを持ち、電子の頭脳には感情と個性までも搭載した、全身が武器の戦闘型ロボットである。
司令官のズートル博士は本部からあれやこれやと通信で捲し立てているが、アラシはそれを適当に聞き流しながら、部隊の後ろで空に向かって唸り声を上げている野犬達に振り返った。
「大丈夫だ。ここは俺に任せて森のみんなを守ってくれ。だけどもしもの時は頼むぜ?」
その言葉を理解したのか、野犬達は森の中へ引き上げて行く。
『アラシ!聞いとるのか!?』
「はいはい、宇宙船は五隻、内部の生体反応は約三千ね。
しかしこんな夜中に大勢で押し掛けるとは迷惑な連中だ、パーティの二次会なら馴染の店にすればいいのに」
無限に広がる宇宙には、無限の意識が蠢いている。それぞれの平和があり、それぞれの事情がある。何処かの平和の為に、こちらの平和を奪おうとする者もいる。
そういう連中には、この地球が何も出来ない赤ん坊ではないと教えてやらねばならない。
この微笑みを奪う事は容易くない、と。
最初のコメントを投稿しよう!