3/3
前へ
/10ページ
次へ
『僕はずっと、君に触れるのを(こら)えてたのに』  一途だったはずの想いはそれを境に歪んでいった。彼は未成年の俺を誘惑したと言って歩を責めた。純粋な彼女にとって、その言葉はかなりの衝撃だったと思う。歩は罪悪感から彼に逆らえなくなり、求められるままに結婚も受け入れた。 「その時はまだ優しかったんだよ。今年になってからかな。私の気持ちが彼にないってことがバレちゃったんだ」  一緒に暮らしてると、隠しきれないね。 歩が寂しそうに呟いた。 「法に触れても夏くんを選べばよかった」 「もう言うな。お前が苦しんだのも俺を守ってくれたのも、ちゃんとわかってるから」 「怖かった。好きだって気持ちが、自分の大切な人を傷つけることになるなんて」  歩が俺のシャツをぎゅっと掴む。 俺もそうだ。本気ではあったけど、あの軽はずみなキスがこんなにも歩を追い詰めていたなんて、想像もつかなかった。その一方で、傷つきながらも俺を守ってくれた彼女に、性懲りも無く愛おしさが募る。 気持ちのままに歩の頬に手を触れて鼻先を近づけると、彼女の掌が俺の口を塞いだ。  ちぇ… 「ダメだって」 「わかってるよ。気持ち伝えたかっただけ」 「私が帰ってくるまで待ってて。今までの分も抱きしめて、もう離さないでいっぱいキスして」  晴れ晴れとした歩の笑顔と甘えるような約束に、俺も解放された気分だった。そして、同時に込み上げてきた想いに大きなため息が出る。 「…どうしたの」 「そんなこと言われたら、余計に今すぐキスしたくなる」  歩が困ったように、へにゃりと笑う。 ずいぶんと遠回りしてしまった。心の拠り所になるしか今の俺には出来ない。それでも歩が笑ってくれるなら、彼女の『ただいま』が聞けるなら悪い気はしない。 「夏くん。私を好きになってくれてありがとう」  まだ涙目のまま笑うその顔に、俺は昔から弱い。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加