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「夏。俺はお前を尊敬するぞ」
同級生の洸太は俺の背中をばしばしと叩いた。
「好きな女を加害者にしないために身を引くなんて、その健気さは称賛に値する」
「中学生の俺に言ってくれ。俺は去年きっぱりフラれてるんだ」
法学部の彼を質問攻めにして、成人と未成年の恋愛の難しさを改めて知った。
「真剣な恋愛なら何も罪に問われないんだろ?」
「まあな。それでも手のひら返しみたいなことはよくあるらしい。特に性行為の後に、同意はなかったなんて言い出すケースだな。本人じゃなくて親が出てくることもあるし」
「俺より歩が可哀想だ。俺は子どもだったから、彼女を守ってやれなかった」
男女が逆だったら。もう少し歳が近かったら。
ほんの少しでも何かが違っていたら、今も歩は俺の隣にいたのだろうかって思う。
「ところで夏。合コンどうする」
「K大との? 行こうかな」
「お前も変わったな。彼女以外は目もくれないと思ってたのに」
「けしかけたのはお前だろーが。さすがに結婚しちまったしな」
「ふふん。この先、万にひとつの可能性もないわけじゃない。彼女といざって時に経験値がゼロってのもダサいし、童貞拗らせてんのもキモい。ヤケ酒ならいつでも付き合うぜ」
ニヤつく洸太に俺は半分呆れて、でも密かに感謝もしていた。
「持つべきものは友だな」
大学生は思ってたよりも忙しい。授業はもちろん、遊びにバイトに合コン、サークル活動もある。仲間内で女の子ともそれなりに話したり出かける機会も増えた。コンパの相手からそういう雰囲気を感じたこともあるし、割り切って後腐れのない子と寝たこともある。刻み込まれた歩の記憶も少しずつ薄まって、もしかしたらこのまま別の人を好きになれるかもしれない。
本気でそう思ったりもした。
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