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 買い物に慣れてない俺よりも、主婦である歩の方がすぐにルウの売り場を探し当てた。 「サンキュ」 「これも美味しかったよ。オススメ」 「へえ。辛いの平気なんだ」 「私はちょっと苦手だけどね」  ずきんと胸が痛んだ。情けないが、歩のことになると俺はただのガキに戻ってしまう。 「一緒に帰ってこないのか」 「え?」 「旦那さん。初めての里帰りだろ」 「あ、うん。お正月は日帰りで来たんだよ」  歩の表情が目に見えて強ばった。彼女の中でも、俺とのことが尾を引いてるのだろうか。二人とも黙ったままレジに並び、会計を済ませて店を出た。 俺たちは傍からどう見えるんだろう。入口のガラス窓に映った自分はとっくに歩の身長を追い越して、肩幅だって両腕だって彼女をすっぽり包むことが出来る。なのに、(いま)だに俺は彼女を笑顔に出来ないでいる。 「歩ちゃん?」  甲高い声にはっとした。年配の女性が笑顔で近づいてくる。 「あ。こんにちは」 「帰ってたの。あら、こちらご主人?」 「いや、俺は…」  慌てる俺を制して、歩は彼女と話し始めた。立場を否定されなかったことに安堵している自分がいた。  俺もいい加減 未練たらしいよな… 俺なりに断ち切ろうとしたつもりだった。抗って苦しんで、時には自分の気持ちをねじ曲げても『正しい』と思う方向に進んできた。今、自分も大人になって、彼女の隣にいても違和感がないほどの見た目になって思う。 『正しい』ことって何だったんだろう 俺たちは純粋にお互いを想っていた。たとえその先に看過できない行為があったとしても、やっぱり他の奴らとは違うと言い切れる。でも、今の彼女に触れることは間違いなく法に抵触する。楽しげに会話する歩を見ながら、俺は苦い思いを飲み込んだ。
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