たまには童心にかえって

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 ある9月の金曜日の夜。2ヶ月毎の同期会終了後、帰る方向が同じの田中はんと僕山田。ちなみに同期会終了後、僕が田中はんの住んでいるアパートまで送るのが当たり前になってかれこれ3年以上になる。  ただ今、彼女のアパートまでもう少しという所の住宅街の生活道路上にいる。今日は帰り道に彼女に伝えたいことがあるねんけど、むっちゃ酔うとる…大丈夫かいな。 「なんか、久々にいっぱい飲んだわぁ〜…なんか、めっちゃまわってる〜」 「なんか飲んでたなぁ…何飲んでたんか知らんけど…久々の同期会で楽しかったんは分かるけど…」 「あーーー…♪まわる〜っまわる〜っぐ〜るぐるっまわるっ!」 「あーーー…こらあかん、いつもにましてええ調子や…確かこの先に公園があったはず………あったー!田中はん、この先の公園に確かベンチと自販機あったはずやし、取りあえずそこで酔覚まそ」 「はーーーい!山田君…」 と田中はんが急に近づいてきて、謎に僕の首の後ろをクンクンクンクンしだした。 (いったい何事や!田中はん!!) 「や〜まだくーん…くんくんくん…や〜まだくーん…くんくんくん…や〜まだくーん…くんくんくん…」 「なっ、なっ、なんやの…田中はん、急に?僕、もしかして、臭い?汗臭い?」 「ううう〜ん、臭ない。柔軟剤のいい匂いしてる」 「あっ、ほんま?よかった…って、そんなんしてる場合ちゃう。取りあえず、はよ公園行こ!」 「はい、はーい!行こ行こ…って、公園行って、何する〜ん、山田君?」 にまにましながらそんな事をぬかしやった。 「何する〜ん…って、アンタの酔い冷ましに行くのにきまってるやん。さっきアンタに言ったで?」 「ふ〜ん…ふ〜ん…そー()うたら、聞いたなぁ…ふ〜〜ん」 何故か急にぶすっとしだした田中はん。 (もぅ、難しいなぁ💦💦) 田中はんの後ろに回って背中を押して公園へと向かう。 ーーーーー  公園の中に入ると照明が所々ついていて思ったより暗くなかった。 「田中はん、このベンチに座って待ってて。僕、そこの自販機でなんか飲み(もん)買ってくるし。なぁ…分かった?」 右手をまっすぐ挙げて、「ハ〜イ!」と調子よく返事をする。 (調子いいなぁ…なんか心配やなぁ…) 気になりつつも早歩きで自販機へ行く。 ーーーーー (えーっと、やっぱお茶がいいかなぁ) 後ろポケットからICOCAを出して、ピッとかざしてペットボトルの麦茶のボタンを押す。ドコッと下へ落ちる音。もう1回ピッとICOCAをかざしペットボトルの麦茶のボタンを押す。ボコッと下へ落ちる音。ICOCAを後ろポケットに仕舞って、屈んで取出口から右手で1本ずつ取り出…せへん。座り込んで、取出口の中に両手を突っ込んで、重なり合っているペットボトルを離して両手で取出す。そのまま田中はんが座って待っている…であろうベンチに急ぐ。 ーーーーー (あれ?田中はんがおらん…あのアホの酔っぱらい、どこ行ったんや?) あたりをきょろきょろ見回す。 「や〜ま〜だく〜〜ん!こっち、こっちーーっ!ベンチにいっぺん座って、立ってそのまま真っすぐ見てみて〜」 姿は見えねど声は聞こえる。彼女の指示通り、ベンチに座って立って真っすぐ見てみると、少し先のほうでぼんやり灯りに照らされて、立って両手で大きく手を振っている田中さんが見える。 「そのまま真っすぐ歩いてみて〜。そしたら砂場があるし〜。私、そこにおるし〜。わかった〜?山田く〜ん!」 「わかったー!」と僕は返事して両手に持ってるペットボトルのお茶を一旦ベンチに置く。そして背中のリュックを前掛けにして、その中に仕舞う。再び背中にリュックを背負って、田中はんのいる砂場向かう。 ーーーーー 「僕言わへんかったっけ?ベンチに座って待ってて…って…それがなんで砂場におるん?」 僕は中腰で呆れ顔で、砂場に座っている…座り込んでいる田中はんに伝える。 「なんで?って、昔砂場でよく山とかドロ団子とかおままごとして遊んだなぁって思ったら遊びたくなってん…山田君と。なぁ、山田君、一緒に山作らへん?ほら、見て見て!途中まで作ってんで?」 口だけでなく、砂だらけの手で途中まで1人で作った山を指差して「見て見て!」と僕にアピールする。言われた&指でアピられた山を見てみると結構な大きさで、正直びっくりした! 「今も結構な大きさやけど、出来たら立派な山になりそうやん…スゴイなぁ!」 「そうやねん!ほんま、何十年かぶりやし、やり出したら結構面白くって!両手で砂掘って土台作って…ってしたら子供用のプラスチックのスコップが出てきて!こんなん出てきたら、なんかテンション上がって、黙々と掘っては土台に砂かぶせて、途中形作りながら均して。気づいたらこんななってた!」 もうそれは嬉しそうな顔で、沢山話す田中はん。そんな彼女をよく見ると、右肩のあたりにある髪の毛に砂が飛んでいたり、腕も砂だらけ、ズボン(パンツって言うの?)の裾や足元も砂だらけになっていた。僕は無意識に彼女の肩のあたりにある砂のついている髪の毛へと左手を伸ばしす。すると彼女はびっくりしたのかびくっと身体を1回大きく揺らす。砂の付いているあたり一房ほど指で軽く摘んで、そのまま指を毛先へと滑らせる。 「あっ…びっくりさせた?ごめん…。髪の毛に砂がついてたから…」 ほらっと指についている砂を見せる。彼女の目が一瞬まん丸になって、目の下をほんのり赤くさせて、視線を下にする。僕も彼女に釣られて?少し心臓をどきどきさせる。 「あっ、あーぁ…ほ、ほんまやね。ありがとう…全然気が付かへんかったわ。夢中になり過ぎて…」 「そ、そうなんや。そんなに夢中になってたんや。そんなに夢中になるくらい面白いんやったら、久々に童心にかえるのもいいなぁ…ほんなら田中はん…いや…千都(ちづ)ちゃん、一緒に山作ろ!」 「えっ、ち、千都ちゃん…うん…山田…じゃなくって、たっ、太郎ちゃん、いいで。一緒に山作ろ!」 千津ちゃん呼びをしたら、顔が真っ赤になって動揺が隠しきれてない彼女から、太郎ちゃん呼びはないわ…自分の全身が赤くなっていくのがわかる。心臓なんかもうばくばくやわ…。 「た、太郎ちゃんて…あー…なんか恥ずかしいわ。まぁ、でも、いっか…よし!作ろ、作ろ!」 僕は「あいたたた…」と声に出しながら中腰の姿勢から腰を伸ばす。田中はんが荷物を置いている砂場のコンクリートの縁に腰を気遣いながらゆっくり歩く。肩からリュックを下ろして田中はんの荷物の横に添える様に置いて、その場で深呼吸を1回した。 ーーーーー  作りかけの山まで戻ると、田中はんがスコップを持って、少し湿気のある砂をすくっては山の上にのせてを黙々としていた。 「田中はん、スコップで穴掘ってもう少しかための土すくって山の上に乗せてほしい」 「山田君、私もそれ思って掘って少し硬めの土あるか見たんやけど、湿気てる砂しか出てこうへんねん」 「あっ、そうなんや。じゃぁ、しゃーないなぁ。湿気てる砂でいこか」 「うん。私山に砂置いていくし、山田君かためたり均したりしてくれる?」 「うん、いいよ」 そして、ここで一旦会話は終了。暫く黙々と二人で山を作っていく。   サクッざくっ   じゃりじゃりじゃり…   ざらざらざらざらざら   べたべたべたべたべたべた   ぽんぽんっ ぽんぽんっ   ざくっざくっ   ざゃりざゃりじゃりざり   ぽんぽんぽん ぽんぽん   ぺんぺんぺん ぽんぽんぽん… ーーーーー 「これで完成?」 底辺50センチ高さ30センチ程の出来た山を見ながら、やり切った表情で呟いた田中はん。独言なのか僕に話しかけたのかは分からへんけど、僕は「うん、完成や」と言った。 「ハァ〜…やっと出来たぁ…」 そう言って、座ったまま手についた砂をパンパンっと何度も叩き払って、立ちながらお尻についた砂、ズボンに付いた砂を順々に払っていく田中はん。 「ほんまや…やっと出来たなぁ…立派なん出来た」 僕も田中はんに倣って、座ったまま手についた砂をパンパンっと何度も叩き払って、立ちながらお尻についた砂、ズボンに付いた砂を順々に払っていく。 「田中はん、取りあえず自販機で買ってきたお茶…ぬるくなってるけど飲んで休憩しいひん?」 「するする!むっちゃ喉乾いてるし!」 「そしたら、手どうする?洗いに行く?」 「手、なぁ…。このあと、トンネル掘るんやったらまた手汚れるし、私ウエットティッシュ持ってるし、それで手拭いとく?」 「あー…トンネルなぁ…折角やしトンネル掘りたいなぁ。そしたら、田中はんのウエットティッシュ貰って手拭いとこか…」 「そうしよ、そうしよ!ちょっと待っててな!」 いそいそと鞄までウエットティッシュを゙取りに行った田中はん。 ーーーーー  お茶休憩も終わり、第2弾のトンネル掘りをすべく再び砂場に戻り、山を挟んで座る。 「これで真正面に座れてる?」 「うん、座れてると思うわ」 お互い顔を見合わせて確認。 「じゃ、砂場と山の境掘っていこ!山崩さんようにそうろっとな!」 「うん、分かったわ」 お互い顔を見合わせて確認の意味を込めて頷く。そしてお互い砂場に左手をついて、片膝をつけて、右手で掘り作業を始める。   じゃり…じゃり……じゃり…   じゃり……じゃりじゃり…じゃり…   じゃりしゃり……じゃり……しゃり……   じゃり…じゃり…じゃり…じゃりっ…   じゃり…じゃり…じゃり………じゃ………!!! 「あっ!」 「わっ!!」 トンネルの中でお互いの指先が触れ合った瞬間!!そして、僕は彼女の指に自分の指を絡める。そして次の瞬間、山が崩れる。「えっ?」「うわっ!!」とお互い声を゙出す。崩れた山を見て、僕は項垂れる。崩れた山の中は指を絡めたまま。  頭を上げると、田中はんと視線が合う。ずっと彼女は、頭を上げたままの僕を見ていたのか?彼女と視線を合わせたまま、絡めた指を外し、5本の指先で彼女の手の甲を砂混じりになぞり握り締める。その瞬間、彼女は目をまん丸にして、声にならない「えっ!」と口を半開きにする。僕は顔を出来るだけ斜めにして、目を軽く閉じて、彼女の半開きのままの口にそっと口づける。小さく「ちゅっ」とならして、離れがたい唇をゆっくり離し、ゆっくり顔を離していく。ゆっくり目を開けて彼女…田中はんを見ると、顔を真赤にして、目をまん丸にして、僕をガン見していた。 「田中はん…新入社員の頃から好き…僕と付き合ってほしい…」 返事の代わり?か頭を左右に振る田中はん…(断わられるか…)悲観的な事が頭を横切る。 「あの…私…実は、今日の同期会でアルコール類全く飲んでへんねん」 質問に対する答えと違う答えを返す田中はんに、目がてんになる。その間彼女の話は勿論続いてて、慌てて我に返る。 「酔ってへんかったら、いつも通り山田君にアパートまで送ってもらえへんと思って。ノンアルを飲んでむっちゃ酔ったフリをしてん。今日はどうしても素で山田君に伝えたいことがあってんけど…なんか先越されてしもたなぁ…」 (ん?…あれっ…僕に伝えたいこと?先越されてしもたなぁ…って…?あれっ?あれっ?) 田中はんの話の中で返事に対するキーワードが出てきて、はたまた聞き間違いか?頭が回らなくなって固まっていたら、彼女にでこピンされた。 「山田君、ちょっとちょっと、固まってるけど、大丈夫なん?」 「あっ、うん…大丈夫…さっきの…“素で山田君に伝えたいことがあってんけど…なんか先越されてしもたなぁ…”って、もしかして僕への返事?」 「うん。そうや」 「えーっ…なんか中途半端な答えでわからへんし、分かりづらいし、ちゃんとはっきり言ってーなぁ」 「はっきり?うーん、改めてはっきりって恥ずかしいなぁ」 「なぁ…頼むわぁ」 「う〜ん…そうやんなぁ…もし、自分がそんな返事されたらいややしなぁ…はい…じゃ、改めて返事します」 「はい。お願いします」 「山田君…私も山田君のことが好きです。お付き合い、受けて立ちます。これからも宜しくお願いします」 「受けて立ちますって、決闘かいな💦💦まぁ、こちらの方こそ宜しくお願いします」 そして、顔を見合わせて笑い合う。 「なぁ、田中はん、付き合って初めての共同作業にもういっぺん今から山作らへん?なんか口惜しいやん、トンネル出来てすぐ山崩れるのって。なぁ、作らへん?」 「もう、今日はいいわ。今日は山作るのたくさんしたし、お腹いっぱい。ひとりでやってんか?横で見てるし。高みの見物してるわ」 「ええーっ!ひとりでやってんか?って、そんな悲しいこと言わんと💦💦」 「チャン、チャン♪」 「チャン、チャン♪…てなに?」 「さぁ…なんか知らんけど😁」
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