3.埋められる外堀

1/4
前へ
/15ページ
次へ

3.埋められる外堀

「…いきなり一緒に来るの?」 「当然。いいか?俺はかなり忙しい身だ。琴音を完全に確保するまで仕事が手につかないんだから、早く話をすすめたいんだよ」 はぁ…そりゃすいません…と言いつつ、再会してすぐ結婚とか同居とか言うからいけないんだ…とも思う。 響と一緒に駐車場に降りると、黒のスポーツタイプのデカイ車が停まっていた。 運転するのは響みたい…。 2人で車内に乗り込むと、ナビに入力するらしく、住所を聞かれるまま答えた。 「結構近いとこに住んでたんだな…!」 と言ってため息をつく。 それは多分、知ってて隠してた優菜ちゃんへの怒りのため息かと思われる…。 後で響に怒られるんじゃないかと…こっそり優菜ちゃんを心配した。 「大丈夫だ。優菜のことは気にするな」 考えてたことがわかったみたいに言われてギクっとする… 住所は音声で入力完了らしく、車をスムーズに発進させた響。 グイっと引っ張られるような加速をする車は、まるで響そのものみたいで…私はハンドルを握る横顔をそっと見た。 …………… 「…あらっ!まぁまぁまぁ!響くんじゃないのぉ〜!大きくなったわねぇ!」 「ども。久しぶりです」 ボロいアパートの一室。 響は私の実家に驚きもせず挨拶を返し、父も弟も、響に抱きつくように再会を喜んだ。 「…響くん…めっちゃイケメン…!昔より100万倍カッコよくなってる…」 弟…大学受験を控えてるとは思えない語彙力。 「響くん、連絡をもらって…本当に助かったよ。なんて…お礼を言ったらいいか…」 父に至ってはもう泣いてる。 …ていうかもしかして、会社倒産の危機、もう手を打ってくれたってこと? 「…お礼なんて…子供の頃可愛がってもらった思い出だけで、十分です」 あれ…意外。 私との同居とか結婚とか言ってたから、それをお礼として認めさせるかと思った。 「…それに長い間…琴音を思っててくれたなんて、本当に奇跡だ」 「…じゃあ、認めてもらえますか?」 母が脇から飛んできて、私を押しのけて響の手を握った。 「認めるどころか…こっちからお願いしたいわよ!」 「…え?あのさ、なんか私を抜きに…話がすすんでる気がするんだけど?」 ここで会う前に、もうすでに三者で話し合いがされてたみたい…。 両親は私を無視して、2人して響の手を握ってる。 響は、そっと私を見て笑うから… あぁ…響の思う通りになったんだなぁ…と思っていた。 ……………… 「なるべく全部持って行ってくれる?」 弟と共同で使ってた勉強部屋。 1人で使えることになって、弟ってば嬉しそう…。 「…全部なんていきなり無理っ」 仕事をするようになったら、大学費用を出してあげたいとまで思ってた優しい姉に対して…何たる態度っ! 残りの荷物は響が手配した人が運んでくれるそうで… 私は身の回りの物を持って、あのマンションに戻ることになった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

823人が本棚に入れています
本棚に追加