3.埋められる外堀

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帰りの車では、響はすこぶるご機嫌だった。 「…ちょっと寄り道するぞ」 着いた先は…知ってはいるけどこれまでの人生でまったく縁のない高級ブランドのお店。 迷うことなく入っていく響に慌ててついていくと… 暖色系のライトに照らされた服やバッグ。 繊細で、飾り物にしか見えない美しい靴。 足元はダークブラウンのカーペットが敷き詰められていて、過度な装飾なんて何もないのに、圧倒的な高級感を漂わせる店内。 多分、こういうのをラグジュアリーな空間…とか言うのかも。 そんなことを思っていると、店員さんが音もなく響の前に現れ、深く頭を下げた。 「ようこそお越しくださいました。武者小路さま」 ドアの中と外では時空でも違うのかと思うほど、静かな店内。 「…あぁ。今日の客はこの子。似合いそうな服、なんかある?」 …え?ちょっと待って私? こちらへどうぞ…と、吐息みたいな声で言われ、私もハイ…っと吐息で答える。 店員さんが私と服を見比べながら、ボルドー色のワンピースを見せてくれた。 すごく大人っぽいデザインだけど、とても綺麗な色で惹かれる… 他にもモスグリーンのゆったりめのワンピースと、何点かトップスとスカートを選んでくれた。 するとそれをじっと見ていた響が注文をつけた。 「ミニスカートも着せてやって」 「…え?そんなの着たことないんだけど?」 店員さんは黒いシンプルなミニスカートを持ってきてくれた。 試着室に連れて行かれ、早速ミニスカートから着せられる。 店員さんが選んだこれまたシンプルな白いカットソーと合わせると… あら不思議。鏡の向こうの自分に結構似合ってる。 …ただ…膝上15センチ。 こんなに足を出すのは人生初…! スカートを無意識に引っ張る私を、店員さんはあっという間に響のところに連れて行ってしまった。 「…おぉ?」 一言、驚いたような声をあげた響。 ニヤッと笑って… 「選んでもらった服は全部購入するから、包んでくれる?」 店員さんにも笑いかけた。 そして響は、もう一度私の姿を見ながら近づいてきて、慣れた手つきで腰のあたりに触れた。 「…どどど…どこ触ってんのよっ」 小さく抗議するも、響の甘い表情は変わらない。 なに…?ミニスカート姿の私に萌えた? なぁんか、調子狂うなぁ…と思っていたけど…まさかこれが、始まりの合図だったなんて。
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