3.埋められる外堀

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「怖かったか…」 私の顔を覗き込むように横向きに体を沿わせる響。 泣いてる…と気づいてからは、その涙を自分では止められなくなってた。 「…ごめん。急ぎすぎたな」 思いのほか優しい声色で…覗き込まれた瞳と合わせると、動揺してるみたいにその視線が揺らぐ。 開いた唇が、何か言おうとして、キュッと引き締まる。 さっきの妖しい手つきではなく…愛おしむように背中を撫でられ、わずかに力を込めて、その胸元に引き寄せられた。 響…心臓の音、うるさ… 言葉に出したら怒られそうなことを密かに思い、そっと見上げてみると…響も私を見下ろしたところで。 「抱きしめるくらい…させろ」 伝わってくる…響が私を愛おしむ気持ちが。 でも…今は言わせてもらう。 「私を、響と同じくらい好きにさせて。恋に落として」 「…は?」 「大学を卒業するあと半年で…私をどうしようもなく好きにさせてよ。そしたら、結婚も…考える」 考える…?と呟いて、響の眉間にシワが刻まれる。 「…お前、今は俺のことをなんとも思ってないのか?」 「…き、嫌いじゃないよ?もちろん…」 「じゃ、俺に落ちろよ素直に。体じゃなくて、心な?」 「…」 そんなこと言うけど… 結婚なんて…身分違いすぎるでしょ。 でもそれは、ちょっと言いたくない。 だってこの熱量で迫ってくるこの男。 どうせいろいろまくし立てて、最後は『問題ない』で終わるに決まってる。 何も言わない私に、響が心底困ったように言う。 「まったく…お前くらいだ。俺にここまでされて落ちない女は」 響は、急に脱力したように仰向けになった。 「普通は夜景を見ながら抱きしめたら、すぐにその気になる。なのに暗くしてくれてありがとうとか言うし」 …響はそうやって、いろんな女の子をその気にさせて、落としてきたんだな…。 「しょうがねぇからこっちの本音を伝えて結婚まで言ってるのに、まさか恋に落とせとか言われるとはな…?」 私は乾いてきた涙の跡をこすりながら「さっきは怖かったな…」と言ってやった。 すると慌てて起き上がった響。 「しょうがないだろ…好きなんだから」 私の手の上から自分の手を重ねて、一緒に涙の跡をこする。 「…逆に、どこまでいいか言え」 響、また瞳が蕩けてきて…私が答えを言う前に勝手に決めつけた。 「ハグとキスはオッケーだな。わかった。後は半年以内に恋に落とせだと?楽勝だから任せとけ」 美しい顔に余裕の微笑。 裸の胸…頬に触れた優しい指先…。 …確かに…本当に楽勝だったりして。
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