1.捕獲…?

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1.捕獲…?

「…今日も来てる」 真剣な表情を半分壁に隠しながら、客席の方を見て、バイト仲間の女の子が声を上げる。 ここは都内の落ち着いたカフェ。 同じロゴの店は日本を飛び出し、海外でも見かけるようになった、人気のカフェチェーンだ。 今の…私に言ったのかなぁ… 話は聞いてあげたいけど、今…抹茶フラペチーノ作ってて、最後の粉がけ作業に集中したいからちょっと無理なんだよね… 「…知ってる!ね〜なんなのあの人?!」 私じゃないバイト仲間が話に加わった。 …ちょっと待ってよ。そんな話はあとにして、待ってるお客さんの注文聞いてよ… 「…出来た」 外野の喧騒にまどわされる事なく、美しい抹茶フラペチーノを完成させた自分を褒めたい…。 「お待たせしました…抹茶フラペチーノのお客さま〜」 こうなったら最高の出来上がりを早くお客様に…振り返って叫ぶと、さっきバイト仲間が噂していた人物がこちらにやってきた。 こげ茶色のスーツにカラーのワイシャツは、秋のはじまりを表現しているみたいな…それは完璧なコーデ。 足元の革靴はピカピカで、踵からコツコツ心地よいリズムを鳴らしてる。 「…俺だ」 目の前に立ったその人は、見上げるほど背が高い。 そして…彫刻みたいな彫りの深い顔立ちはイケメンを通り越して、芸術的美しさまで漂わせてる… …こんな人が、私と同じ… 「…日本人?」 ヤバい…。 驚きが声に出てしまった。 「…」 「…お待たせいたしましたぁ。抹茶フラペチーノでぇす」 バイト仲間が素早くやってきて、私の手から渾身の力作を奪い、手渡してしまった。 「…お待たせ、しました」 我に返って軽く頭を上げると、まさに頭上から低音ボイスが響いた。 「…俺は…クォーターだ」 「…え?」 「え…じゃない。日本人か?って聞いただろ?」 タイムラグのある返事に、一瞬頭が回らなかった。 「俺に興味があるのか?」 「え…っと」 なんだろう…ヤバい人? カッコよすぎて何だか怖っ…! 「武者小路…響」 「え?む、むしゃ…?」 突然名乗られた時代劇みたいな難しい名前は…どこか懐かしいような…。 「わぁ〜!お客様、珍しいお名前なんですねぇ…私は…」 考えてる私を突き飛ばして、イケメンの前にしゃしゃり出るバイト仲間…おとなしそうな顔して…こういうタイプだったとは…! 「君、悪いけど…この子の分も働いてくれる?」 時代劇的苗字のイケメン、目にも止まらぬ速さで私のエプロンを脱がせ、その子に預けてしまった。 「え?ちょっと待ってください。なんですかいきなり?」 「…うっせーわ。年下なんだから、俺のやることに従え」 「…!」
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