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5.知られてしまった秘密
「なんか…急に辞めるのに送別会とか、普通に嬉しい…!」
ありがとう…!と、集まってくれた皆をぐるり見渡して言う。
「…カフェの仕事好きだったのに、なんで辞めちゃうの?
確かに。
就職で辞めるにしてもあともう少しだったのに…本当はシフトを減らしても最後まで続けたかった。
「…いろいろやってたから…体力的に無理が出ちゃって…」
うそーちっちゃいくせに体力オバケのくせに〜というイジりを適当にかわし、長く続けたバイトの終わりを実感する。
「…琴音の彼氏って、武者小路なんだな」
皆酔ってきて、席を移動し始めた頃、端の方にいた玲が隣に座って言った。
響のことを武者小路と言って、すでに名前もわかっているということは…幼なじみというのは本当らしい。
「…うん。…ていうか、私も幼なじみなんだよね」
あんなすごい人を恋人だなんて、たいして親しくない人に言ってもいいのか…一瞬悩んで曖昧な事を言う。
「…なら、俺に乗りかえない?」
「…は?」
玲がグッと顔を近づけてきた。
「お前、うちの会社に就職するんだろ?俺…そこの2代目だから」
「…?!」
確かに、私の就職先はバイト先のカフェの運営会社、FUWARIコーポレーション。
玲があの会社の、2代目?
「…どした?驚いちゃった?」
「…うん、まぁ…」
昨日響はそこまで言ってなかった。
流石に知らなかったのか…それとも私の就職先を知っててわざと言わなかったのかな…。
「確かに響の方がバックはデカいけどね。でも…旧財閥の武者小路グループの御曹司だよ?琴音ごときに本気になるかね?」
何も言わない私に、玲は違う言い方でこちらの気持ちを確かめてきた。
「…それとも、やっぱりバックのデカさで選ぶ?…うちだって相当なもんだけど…?」
「…別に、響が御曹司だから惹かれたわけじゃないから。同じように…玲のことも、就職先の次期社長になる人だからってだけで、好きになることはない」
それだけ言って席を離れようとした。
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