7.事件です…

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私が全力で走ったって、響の長い足が走り出せば、追いつかれないはずはなくて。 「待てよ…っ」 肩を掴まれ、響は私を振り向かせた。 「ごめん…邪魔した…。あんまり人のラブシーン見たことなくて、動揺しちゃっただけで…」 響は私を広い胸に閉じ込め、ギュッと抱きしめた。 「ごめん、変なもの見せた…油断してた」 抱きしめられた響から、嗅ぎなれない香水が、かすかに香る。 その瞬間、頬がカッと熱くなって、全力で響の胸を押した。 「女の人の香水の匂いがする…」 え…?と怪訝な顔をする響。 「…わ、私のこと好きって言ってたけど、じゃあ、さっきの女の人は…?」 「違う。あれは、別れた人で…」 「知らない香水!嫌い!響…嫌いっ!」 一瞬緩んだ腕をすり抜け、私は一目散に駆け出した。 遅くなったのは、あの女の人と会ってたから… スーツに香りが移るほど、近くにいたの…? 自分でも驚くほどそれが嫌で、悔しくて悲しくて、どうにもならなくて…ひたすら響から離れたくて走った。 ……………… 「…琴音?」 「ごめん。別れたばっかりなのに…でも行くとこなくてさ」 真莉ちゃんは1人暮らし。 はぁー…なんてため息を吐かれれば、ひどく申し訳ない気持になる。 「今日だけ。キッチンのすみ…じゃなくて、ここでいい。…で、朝になったら出ていくから…」 眉を寄せて難しい顔をしてる意味は、いくら私でもわかる。 友達とはいえ、やっぱり性別の違いで…踏み込んではいけない場所があるってこと。 私は今、ルール違反をしてる。 ちょっと待って…と言って一度部屋の奥に消えた真莉ちゃん。 「いいよ。上がって」 次に顔を出した真莉ちゃんは、頑なに遠慮する私を、リビングに招き入れてくれた。 「ここに泊まるとなったら、響さん、裏切られたと思うだろうな。 たとえ俺たちに何もなくても…」 それでもいいの?って聞かれてるみたい。 「…でも、響と2人でいられなかった…」 自分でも意外なほど簡単に涙が溢れてきて焦る… 詳しい理由はまだ話してないうちからこんなんじゃ、真莉ちゃん困るよなって思いながら、涙が止まらない。 後から後から…記憶がよみがえる… 知らない女の人に抱きつかれた響… キスしてる響… もしかしたら、あの女の人がセフレってやつなのかもしれない。 それとも…元カノ? どちらにしても、私なんて足元にも及ばないような…大人の女の人だった。 「…私なんか、なにも知らない子供で…なんか情けなくて…」 面倒くさがらないで、恋ってやつをもっと経験しておけばよかった。 「もっと、男の人を知ってれば…こんな風に悲しくならないでいられたのかな? 女の人とのラブシーンを見ても、しょうがないなぁ…って思えたのかな…」 そう言ってみれば、真莉ちゃんはだいたい何があったのか、わかってくれたみたいだ。 「じゃあさ、琴音も、違う男に触れたらいいじゃん?」 え…?
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