1.捕獲…?

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「そういえば…おばさんは?まだ帰ってないの?」 見たところ、すごく広いマンション。 当然、両親と一緒に暮らしてると思った。 「父さんたちは本家に戻った。ここは俺の住まいな」 「…えぇ?こんな広いところに1人なんて、寂しくないの?」 「…寂しい。一緒に暮らしてくれる人、探してるんだけどさ…」 急に座り直して、私を正面から見てきたから、私も正面から響を見て言った。 「私も…探してあけよっか?同居してくれる人!」 「…は?!」 響は凛々しい眉のあいだに深いシワを刻んで私を見つめ…意外なことを言った。 「琴音、今家族4人でアパート住まいだろ?…で、おじさんは新事業に苦戦してて、おばさんは朝から晩までパートの仕事を頑張ってる」 「その通り…だけど、なんで知ってるの?」 「先週カフェでお前を見かけて…悪いが少し調べさせてもらった。弟も大学受験なんだな?」 デカくなったもんだ…と言いながら、上体をぐいっと近づけて言う。 「琴音はカフェのバイトの後、居酒屋でも働いてるだろ。その上たまに、引越し屋のバイトまでしてる」 そこまで言い当てられて、さすがにちょっと苦しい…。 「その通りだけどさ…久々に会って、それ全部知られてるのちょっとヘコむ…」 「…なんで?」 「なんでって…」 子供の頃、響の家があるあたりに住んでいたということは、今思えばそれなりに裕福だったということ。 それが…突然の引っ越し。 あれはいわゆる夜逃げだった。 「俺はさ、琴音を助けられるって言いたいわけ」 「…助けるって?どういう…意味?」 「俺と、結婚を前提に同居して」 何を唐突に言い出すんだか…。 「…プロポーズみたいなこと言わないでよ…」 「いやプロポーズだろ」 「…また…『なんちゃって!』とか言うんでしょ?」 響の家がお金持ちなのはなんとなく知ってる。 でも私は今、子供の頃と違って極貧だ。 「琴音、まだ俺がどこの誰かわかってないのか?今の俺なら、琴音の背負うもの、すべて肩代わりできるって言ってるんだよ。…おじさんたちの苦労だってそうだ」 響…ふと腕時計を確認した。 「じゃ…俺は一旦行くわ。琴音は風呂にでも入ってゆっくりしてろ」 「…え?ちょっと待ってよ?どこ行くのよ…?」 思わず一緒に立ち上がって、一歩近づいて不安そうな顔をしてしまう…。 「ふんっ…かわい…」 頬をスルリと撫でてから、来る時乗ったエレベーター前に行ってしまう。 「…仕事だよ。これでも一応跡取りだからな。それから…」 くるっと振り向いて、私の頭に手を乗せて言う。 「武者小路、検索してみな。それで多分わかる」 帰りは23時頃…と言いながら、呆気に取られる私を部屋に残して、響は行ってしまった。 …ちょっと待って! 私、それまで帰れないってこと?
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