競争

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 階段を駆け上がる。その間にも、併設されたエスカレーターは、そこにあの『なにか』を乗せて、悠々と上へ向かっていく。  駅へ着き、さあエスカレーターに乗ろう…とした矢先、誰かに肩を叩かれた。  振り向いた先にいたのは、かなり近い距離で向き合っているのに、人型の黒いシルエットに見えない『なにか』。  そいつが、俺が乗ろうとしていたエスカレーターに乗った瞬間、俺は階段を駆け上がっていた。  理屈はまったく判らない。けれど、あいつより先に上に辿り着かないと死ぬ。俺の本能がそう訴えているんだ。  長い長い駅の階段。たまに使うことはあるけれど、いつもこんなに果てしなく長かっただろうか。  考えるている間にも、泊まることを知らないエスカレーターは上へ向かう。そこからあの『なにか』が、表情もないのに楽しそうにこちらを見ている。  絶対に負けられない。あいつより先に上に着く!  その気持ちで、どんどん疲れていく足腰を奮い立たせ、俺はひたすら階段を駆け上がった。 競争…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加