まなびや

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 三年前の四月から、彼は年金暮らしをしている。  午前中は自宅周辺をジョギングしている。  一周 千四百メートル弱のコースを好きなだけ周回する。  小学校の正門前を過ぎて左折すると下り坂が始まる。下った先を左折して町内境を左折すると上り坂になる。上った先を左折して、しばらくすると小学校の正門前になる。  信号機の無いコースなので、給水やトイレのため休憩しない限りは走り放題である。  四月当初は静かだったが、小学校の始業式、入学式と賑わい、平日は通学児童を追い抜きながら走った。  校庭は体育の授業で賑わう。  小学校の登校時間には正門付近で数名の先生が児童を出迎える。  雨の日や強風の日は中止するとはいえ、ほぼ毎日走るので、いつしか出迎えの先生方と会釈するようになった。  とりわけ一人の女先生を見かけるだけで彼は嬉しくなり、練習意欲が高まる。  服装とは関係なく、雪のような白が似合う先生である。  楽しい日々が二年経ち、昨年の四月、女先生が区内の他校に異動になった。  彼は降りしきる桜吹雪の中、先生を見送った。  彼は春休みを利用して、先生の異動先を下見した。  ジョギングで片道三十分以内のコースである。  始業式に合わせて駆けつけてみると、女先生が彼を見つけて手を振る。  彼の心に春が来た。  以来、授業が行われる週に一度は先生の異動先までジョギングするようになった。  猛暑の夏休みが終わった今朝、彼は先生の異動先までジョギングした。  女先生にひと言挨拶し、彼は笑顔で帰路を走る。  今年は 実りの秋になりそうである
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