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「今日、飲みに行こうよ」  帰ろうとしていると同期入社の仲野敦子がそう声をかけてきた。 「ごめん、今日はちょっと」 「えぇー、先週もそう言ってたじゃん。話したいことが塵つもなのにぃ」 と敦子は眉を寄せ唇を尖らせる。敦子の不満は最もだ。ここ数ヶ月、食事やショッピの誘いを受けるたび断ってきたから。度々断っても誘ってくれることがありがたい。ホントそう思ってる。  でもなぁ……。  私は、部屋でひとり帰りを待っているだろう君を思い浮かべた。君と暮らしていることはまだ誰にも内緒にしているのだ。口篭ると、私の無言を逡巡ととった敦子は畳み掛けてきた。 「ね、今日来ると良いことがあるよ。立花くんも来るんだよ」  食い気味に言われた私は思わずフッと笑ってしまった。 「それって敦子が立花くんに興味があるだけでしょ」 「そりゃあね。彼、同期では一番人気だもの。でも彼、智子に興味あるみたい。智子が来るかもって言ったら参加するって言うんだもん。いつもは絶対来ないのに」 「やめてよ。立花くんみたいな仕事出来が私に興味あるわけない」 「お願い。うちの部署の先輩も立花くん目当てでね。今日、ちょっといいお店を押さえちゃったから、先輩の財布をアテにしてるのよー」  敦子がパチンと顔の前て両手を合わせる。なんなのそれ。思わずため息が出た。 「あんたねー……」 「えへへ〜」  敦子の末っ子らしい楽天的な笑顔に「もぅ……」と言う以外ツッコミが出てこない。気が抜けた私はつい、 「確認しないとなんとも言えないし」 と、口走っていた。
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