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また次の朝。
今度はたっくんが動かないように引き止めながら僕が歩みを遅める。念入りに、横断歩道を渡らないように注意する。トラックさえやり過ごしてしまえば、何の問題もない。
するとトラックは、今度は歩道めがけて突っ込んできた。それにいち早く気付いた義母が、僕らを突き飛ばす。また僕は義母が吹き飛ぶ姿を見る。そんなのありかよ、って毒づきながら。
何度繰り返しても、やり方を変えてみても、トラックは僕達を見つけてやってくる。そのたびに義母は吹き飛ばされ、死んでしまう。たっくんは泣いて、もういっかいが始まる。
どうすればいいのか、少しずつやり方を変えながら、僕は試し続ける。帰り道を変えれば。どこか寄り道をすれば。けれどそんな僕をあざ笑うように、トラックは義母の命を奪い去って行った。
繰り返すたび、なんで、が増えていった。なんで僕はこの人の命を救わなければならないのだろうか。まだ一緒に暮らし始めて一年も経っていない。ほとんど他人の命だ。なんで僕がここまでしないといけないのか。
この繰り返しは、たっくんが満足しないから続いている。たっくんが満足さえしてしまえば、終わるのだ。あるいは、たっくんに諦めがつけば終わるのかもしれない。けれど、まだ五歳にも満たないたっくんに、それはきっとできないに違いない。いつまでもいつまでも納得できず、愚図り続け、朝を迎えるたびに母の温もりに触れ、その温もりを求め続けるだろう。
そして、僕も。
迎えに行くたびに、笑いかけてくれる義母に。様々な話を聞いてくれることに。たっくんと同じように繋いでくれた手の温もりに。
そして、事故に遭い、駆け寄った僕の姿を見て、安心したように笑いかけてくれることに。
その姿に、段々と惹かれていた。
他人のはずなのに。
いつも、「ケガはない?」って、声をかけてくれる。
この人に死んで欲しくないな、って思うようになっていった。
じゃあどうすれば。
あと試していないことはなんだろうか。
僕は、考える。
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