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「おかあさん、ねてるの?」
たっくんが僕に尋ねた。なんて答えればいいのだろう。
「そうみたい。お仕事で疲れてるんだね」
僕は少し悩んだ後、当たり障りのない言葉を選んだ。
「そっか。たいへん」
「そう、大変」
「でも、あしたおやすみのひだもんね」
「そうだね」
「あしたおきたらみんなであそぼうね」
「……どうかな」
そこで、言葉に詰まってしまったのがよくなかった。たっくんは、そういうのに敏感だった。僕の言葉に何かを感じたたっくんは、義母にそっと近づく。小さな手で義母の顔に触れ、顔色が変わる。気付いてしまったのだろう。もう、義母が動かないことに。
「ねえ、おかあさんねてるんだよね?」
「そうだね」
「いつおきる?」
「いつかな、ちょっとわかんないな」
「またあそべる?」
「どうかな」
すぐに起きるよ、なんて僕には言えなかった。だから僕はただ誤魔化した。死とは何なのか、僕にも分からないことを教えることはできなかった。
そして、たっくんは泣き出してしまった。
おきて、おきてとたっくんが義母の頬をはたく。義母だったそれは、何も反応を示さない。それを見て、やだやだとたっくんが癇癪を起こす。
「だっこ! だっこしてくれるっていった! おきて!」
休みのたびに甘えん坊のたっくんは義母にだっこをせがんでいた。けれど、それはもうできないのだ。もう二度と。
どうしよう、と思いながら、僕はたっくんに声をかけようとして、そして。
「いっかいだけだから!」
たっくんが、そう言った。
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