終わらない夏休み v2

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 セミの声が聞こえ、僕は身を起こした。自室のベッドの上に僕はいた。  あれ、さっきまで僕は病院にいたはずじゃ。  そこに、動かない義母がいて。それを見てたっくんが泣いていて。  でも僕は今ベッドの上にいる。  ……なんだ、全部夢だったんだ。嫌な夢だったな。そう考えながら、ベッドから降りようとしたときだった。たっくんの泣き声が響いてきた。  どうしたどうしたとリビングに行くと、仕事に向かおうと身支度を整えていた義母と、その足に縋るたっくんがいた。  やだやだだっこしてと泣きつくたっくんを、義母が困ったようにあやしている。僕の姿を見つけ、義母が少し安心したように笑った。 「よかった。おにいちゃん起きてきたよ、遊んでもらおうね」  義母がそうたっくんに話しかけるが、たっくんは聞かない。いやだいやだと義母に縋りついて離れようしない。僕もどうにかたっくんを宥めようと声をかけるが、たっくんはまるでカブトムシみたいに義母にしがみついて離れようとしなかった。  諦めた義母が携帯電話で職場に連絡を入れ、ようやくたっくんは落ち着いたようだった。だっこをして、よしよしとあやされる内に、安心したたっくんは眠ってしまっていた。  義母と二人でやれやれと顔を見合わせる。 「何があったのかしら」 「怖い夢でも見たんじゃないのかな」  きっと僕が見たような、変な夢を。 「きっとそうね……ああ、いけない。もう行かなきゃ。あとよろしくね」  時計を見ながら慌てて仕事に向かう義母を見送る。  途端、家の中はしんと静まり返った。たっくんの様子を見ると、すやすやと穏やかに寝ている。今は変な夢なんて見ていないようだ。  もしも、たっくんも僕が見たような夢を見たのだとしたら、それは相当ショックだっただろう。まぁ、きっと起きたら忘れているに違いない。そしたらまた、思う存分遊んであげよう。たっくんの寝顔を見ながらそんなことを考えている内に、僕もつい一緒になって寝てしまった。  夢の中でも僕はたっくんと遊んでいて、心のどこかでこれが夢だと分かっていて、夢の中でも遊ぶなんてたっくんはどれだけ遊びたがりなんて呆れながら、それでも僕はたっくんと遊び続けてた。  乱暴に玄関が開けられる音がして、僕は目を覚ました。いつの間にか外は暗くなっていて、玄関には慌てた様子の父がいた。  車に乗せられながら、どこまでが夢なのか分からなくなっていた。  病室には、やはり青白い顔をした義母がいた。
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