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そして僕はまた自室で目を覚ます。たっくんの泣き声が聞こえる。リビングに向かうと、そこには今朝見た光景。カブトムシになって義母にしがみつくたっくんと、困り果てた義母の姿。
そこで僕はようやく理解する。たっくんの力だ。全部、夢じゃなかったんだ。
だっこをせがむたっくんと、困る義母。職場に連絡を入れ、午前中のお休みをもらう。やがて義母にだっこをされ、安心したように眠りに就くたっくん。
全て今朝と全く同じ光景だ。このままだと、義母は仕事に向かい、そして事故に遭ってしまう。するとまたここに戻ってきてしまうに違いない。
どうしたものだろうか。僕は悩む。この巻き戻りは、たっくんが満足するまで繰り返されるに違いない。原因は明らかである。それなら。
「それじゃ、あとよろしくお願いしていいかな」
仕事に向かおうとする義母の服の裾を、僕は掴んだ。
「あの」
「ん?」
「なんか、今日たっくん様子おかしいから、一人だと不安で」
義母にわがままを言ったのはこれが初めてだった。どこかで、あくまで他人なんだ、という気持ちがあった。迷惑をかけるわけにはいかないと考えていた。けれど、今はそんなことを言っている場合ではない。どうにか引き止められないか、と精一杯の気持ちで言葉を紡いだ。
僕の珍しいわがままに、義母はしばらく悩んでいるようだった。けれど、どうにも仕事を休むわけにはいかないらしい。
「悪いけど、早く帰るようにはするから!」
結局、僕にはそれ以上義母を引き止めることはできなかった。
父が玄関を開くまでの時間、僕はどうすべきか考え続けた。
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