第八章 夜に咲く花も在る 三

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 孔士が産まれる前なので、既に二十年を軽く経過してしまった。だから、今は誰も探していない。しかし、失踪事件が相次いだ土地としては、今も知れ渡っていた。 「母は、婚約者を探していますが、現在に至っても見つけていません」  しかし、亜子はこの事件の捜査は依頼していなかった。 「どうして、事件解決ではなく婚約者の失踪の依頼だった?」  そこが、最初の疑問だ。四人も失踪していたら、まず事件を疑うのではないのか。 「それは、慣れです」 「慣れ??」  孔士によると、元々廣川の家系は節目の時に、近親者、周囲の者を含めて、多数の失踪者が出ていたらしい。そこで、幼い頃から話を聞かされて育った一族の者は、失踪に慣れを生じてしまう傾向があるらしい。 「でも、亜子さんは婚約者を探した」 「そこです。慣れていても、実際体験すると、理不尽です」  実際、孔子が結婚し、子供が出来た時も、幾人かが失踪していた。 「俺の時は、職場の同僚、大学時代の友人、親しかった店員がいなくなりました」 「探したのか?」  そして同僚を探すと、更に失踪していた人間がいた。
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