第八章 夜に咲く花も在る 三

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 そして、辰見が悩んでいる、同一人物というのは、この影の犬達が知っているのではないのか。 「あの夏目さん…………」 「何だ?」  この影の犬達は、言葉が通じているように思う。そして、多分、全部が雄だ。 「夏目さん、猿…………ですよね?」 「猿だ」  だが、孔子が俺の正面に来て、まじまじと俺を見ていた。俺も孔士を覗き込むと、その理由が分かった。 「夏目さん、あの……姿が……」 「…………」  孔士の瞳に映っている自分が、不思議そうに孔士を見ている。その姿は猿ではなかった。 「輝くような白い髪に白い肌……ガラス玉みたいな瞳に小さい口……」 「問題ない」  孔士が容貌を説明してくれているが、薬が切れただけで問題はない。  だが、ポケットを漁っても、猿薬が無かった。 「アレ?」 「……忘れてきたのですね…………」  忘れてきたのではない。どこかに落としてきたのだ。 「予備が……車にある」  だが、慌てて車に戻ったが、ケースは空になっていた。 「…………そんな馬鹿な……」 「忘れてきたのですか?」  俺は猿薬を持ってきた筈だ。
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