第十章 夜に咲く花も在る 五

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 それは事件を解決させるという意味ではなく、過去を忘れた影に、過去を体験させる事が出来るのは三毛しかない。そして、人に混じった影は、自分が影という事を忘れている。 「辰見が帰って来ない。今回の始まりは、そこだった……」 「辰見の親は玲央名さんです」  そして玲央名は失踪者を探す為にこの土地に来て、亜子と結婚した。亜子の子供は、綾人の遺伝子を持ち、玲央名の子供として存在している。  失踪している綾人は、実際は失踪ではなく公安の職員で、裏社会に捜査員として派遣されている。  きっと綾人を追えば、俺にも関係していた。  あれこれが絡まり、そこに必然が発生する。  しかも、長い時間を掛けた必然だ。  この必然を作り出したのは、天才か狂人かで、まっとうな者ではない。  俺と西海が無言になると、遠くで遠吠えが聞こえた。そして、カサコソと草が揺れる音が聞こえ始め、その音が車を囲んだ。  窓から外を見ると、闇の中には、更に闇を纏った存在が、こっちを見つめて笑っていた。それも一匹ではなく、十三匹が揃って囲み、更に暗い闇を吐き出している。その吐き出された声は、小さく長く響く。
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