第十章 夜に咲く花も在る 五

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「職業は研修医」 「あら大変ね」  真面目に聞いて欲しい。  しかし、亜子は無表情でも明るく、さっぱりとした口調をしていた。 「やっと、終わりが見えてきたね」 「あまり、いい終わりではないですが……」  綾人が生きている事と、仕事の都合で失踪扱いになっていた事は、西海が亜子に知らせていたらしい。  すると、亜子はその事には気付いていた。 「綾人さんの事は、最近になって……警察の叔父がね、機密だと言って教えてくれたのよ……」  亜子には、もう孫も二人いる。だから、綾人が幸せに暮らしていると分かっただけで、嬉しかったという。 「綾人さんはね、産まれてくる孔子の為に、土地から出て行った。そう分かったから、感謝しているくらいなの」  影が子供を産む時は、今まで存在していた誰かだという事を、亜子も薄っすらと気付いていたという。  だから亜子は、理由を付けて裏社会の探偵を訪ねた。そして、逆に自分の運命を悟った。
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