第十一章 時には雨

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第十一章 時には雨

 孔士は、弥生の事件が発覚する前に、通常社会の全ての資産を現金化していた。 「グランピングの施設一式はホテルが所有。畑と造園は、かつて弟子だった人達が買い取り。俺は裏社会に転勤」 「うむ。良いタイミングで切り抜けた」  そして現金は、裏社会の銀行に預け、新しく家を建てている。  その家は四乃守が手配したたので、大きなドッグランがあるらしい。 「龍平の大学がそのままだけど、どうにかなるだろう」  別に犯罪者ではないので、無事に卒業して欲しい。 「そして、今日も雨か……」  孔士はどうにかなったと笑っているが、これは本人の判断力と、地道な調査の賜物だと思う。  孔士という人間は、当たり前の事が、当たり前に出来るのだ。だから、下調べを念入りに行い、限界まで迷い、スッパリ決断してゆく。 「犬の予防接種をしよう」 「夏目さんは、マイペースですね……」  それは、孔士に言われたくない。  俺は四乃守に呼び出され、犬達の説得をしろと言われていた。何を説得するのかと聞いてみると、犬達には健康診断をして欲しいらしい。 「昔から働いてくれていた職員には、退職金も渡せた。皆、弥生さんの起こした事件を残念がっていて、俺達が出てゆくのを悲しんでくれた」 「あの事件は、謎が謎を呼び、ボロボロと白骨死体が出たので、今も話題になっている」
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