第十一章 時には雨

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 珠緒は俺に電話を掛けて来ては、泣き言を言っている。だが、珠緒は四乃守の患者にも、懐かれていないだろう。そもそも、珠緒は生き物に懐かれない性質を持っている気がする。 『夏目ちゃん、犬達が何か見つけたよ』 「そうみたいだな」  そして、犬達が庭を歩いている理由は他にもあった。 「犬達が警戒している」 「弥生さんは、結局、捕まっていないですから……」  通常社会で、喜多村 弥生は失踪し、誰も行方を知らない。  そして、事件の方は、どっぷりと闇に包まれ、真相が分からなくなっていた。 「喜多村の家も、どっかに消えた」  弥生を雇っていた事で、廣川造園もかなり非難された。だから、全ての営業を止め、今は裏社会に拠点を移した。その時に、働いていた者には、充分な退職金を渡している。しかし、弥生は事件が暴露される前に消えてしまっていた。 「亜子さんが、事件はどうでもいいと言っていたのは、この事だったのか……」  亜子の言った通りに、事件の事など追わなければ、今も通常が継続していたのかもしれない。 「でも、弥生さんは、もっと人を殺しましたよ」
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