第十一章 時には雨

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「本当だ」   亜子はもしかすると、繁盛する事を恐れて、店を小さくした。それでも、これだけの人がやってくる。 「あ、雨が降ってきた……」 「結構、本降りになってきましたね」  『時には雨』が面している道は、車幅が狭かったので、離れた駐車場に止めてきてしまった。それに、雨が降ると思っていなかったので、傘を持っていなかった。  俺が走って車に戻ろうとすると、道原が俺を抱えてくれた。 「この姿では、水溜まりに落ちます」 「猿だからな……歩幅が狭い」  見上げると黒い雲が、あっという間に空を覆い、嵐のように流れていた。形を変え、蠢く雲は、強い風を予感させる。 「嵐の予報が出ていたか?」 「所により豪雨の予報が出ました」  所によりという言葉で、この雨も括れてしまう所が凄い。  そして、遠くの空が光ったと思った瞬間、周囲から遠吠えが聞こえてきた。 「ワオオオオオオオン!!」 「ワアアアアオオオオオン!!」 「雷なのか、遠吠えなのか分からん!」  次に雷のゴロゴロという音が聞こえ、周囲は夜のように暗くなり、傘が意味を為さない程の土砂降りになった。 「あ……」
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