第二章 十月に雨が降る 二

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「渡れますか???」 「中央を真っすぐ」  橋が崩壊しなければ、この水位なら渡り切る事が出来る。しかし、慎重派の道原は、手が震えていた。 「横波が来たら、川に落ちそうです」 「徒歩だったら落ちるが、この車の重量ならば大丈夫だ」  そして、渡り出すと幾度も横波を受けたので、俺は運転席に行くと、一緒にハンドルを握った。 「道原…………」 「夏目さんを抱えていると、ヤケクソを通り越して、穏やかな気持ちになります」  きっと、達観してしまうのだろう。 「半分、あの世に行くからですか?」 「そうかもな」  しかし、三毛は川の先を見つめて、何かを見ていた。 「三毛、幽霊とかは見ていないよな?」 「幽霊は見えません」  そこで、はっきりと言い切ってくれたから良いものの、何を見ているのか分からないというのは、とても怖い。 「夏目さん、通常社会ですが大丈夫ですか?」 「この猿の姿ならば、問題ないだろう」  猿はペットで、人間ではない。 「猿は喋りません」 「う!!」  静かにしていれば、俺は猿なのだ。問題はない。
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