第二章 十月に雨が降る 二

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「玲央名さんは、そういう感じの方です」  業務日誌というのは、箇条書きで連絡事項が書かれているようなものではないのか。これでは、個人的な日記のようだ。 「続きがあります」 「はいはい」 『ドアの向こうには、濡れている真っ黒な髪があった』  これはホラーなのであろうか。 『そして、その黒髪から見える顔は、驚く程に整っていて、仮面のように綺麗だった。これは、完璧を目指した職人の作品のようであった。そして神秘の出来だった。その神秘の存在が視線を上げて、私を見つめた時、慌ててドアを閉めた』 「ドアを閉めたのか……」  しかし、再びコツンと小さく響く音があり、我に返った玲央名は慌ててドアを開ける。 『もしかして、この子が他の探偵が断った人探しの依頼者かと、すぐに素性は分かった。追い出したかったが、全身がずぶ濡れで、しかも小さく震えていた。せめてタオルを渡そうと思い、事務所に入れてしまってから、失敗したと悟った』  つまりは依頼内容を聞いてしまった。 『彼女の名前は、廣川亜子。婚約者の行方を探していた』
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